◇◇◇商事シアトル支店のTさんは原爆手帳をお持ちであった。

”あの日”は、母に連れられ川のような所に逃げて来て、わけも無くブルブルと震えが止まらない幼い自分に、母親が布団のようなものを掛けてくれたのを憶えているという。

8月6日だから寒くはなかったろうが、幼児がブルブル震えるというのは生命の危機に対する生きものとしての本能であったろうか。

私とは全く違って頭脳は明晰、色白の美男であり、何よりジェントル・マンであられたが、風邪をひき易い等抵抗力が弱いとおっしゃっていた。
その割には、お酒はぐいぐいイッテいたようであったが・・・

昭和20年8月6日の「ヒロシマ」は言うまでも無く人類最初の原子爆弾による惨禍であるが、使用された”ピカドン”は、高濃度濃縮されたウラン235の核分裂反応ー核爆発ーを利用した「Mk.1」通称「リトル・ボーイ(Little Boy)」と呼ばれる「ウラン型原爆」である。

原爆とするにはウラン235を高濃度(70~90%)に濃縮する必要があるわけだが、「リトル・ボーイ」は総重量4.4トンに達する巨大爆弾だが、内装するウラン重量は64Kgで、濃縮度は80%と云われる(内50Kgについて88%(44Kg)、残り14Kgについては50%(7Kg)の濃縮度)。

「リトル・ボーイ」のウラン235総量は、51Kgだったことになる。

相生橋を目標とし、起爆は地上高度1,900ft(600m)にセットされていたというが、横風があり240mずれた島病院の直上600mが爆心点になるという。

ガン・タイプのウラン原爆というのは、核爆発起爆が容易で確実であるが、反面安全性に問題があり、核物質の使用効率も悪いのだという。
「リトル・ボーイ」も核爆発反応を起こしたウラン235は、1.38%程度(700g程度か)だったと云われる。
それでも爆発威力は凄まじく(TNT換算で13~18kt)、当時人口35万といわれた広島市は壊滅している。
即時に爆死した者7~8万、負傷者7万が発生したという。
火傷等の負傷や放射能障害によりその後死亡した者は、昭和20年末までに9万~16.6万、昭和25年までに20万が死亡したとも言われるようだ。(

放射能障害は今に至るも広島の被爆者を苦しめているわけだが、核分裂反応を起こしたウラン235は1kg未満であり、拡散された放射性物質は、原発事故に比し、さほど多くはない。

東京電力福島第一にある燃料集合体の本数だが、冷却プールにある使用済み燃料集合体や炉心に装荷された燃料集合体の他に、これから使用する新しい燃料集合体もあるようで、総数は下記になるようだ。
以前記述の本数は間違っていた()。

  使用済燃料集合体:原子炉内装荷:新燃料集合体
1号      292       400      100
2号      587      548      28
3号      514      548      52
4号     1,331       0      204
5号      946      548      48
6号      876      764      64
共用プール 6,375

)(

福島第一にある燃料集合体の総数は14,225本となる。
5、6号機と共用プールを除いた、1から4号機だけでも4,604本になる。

原子炉内のウラン装荷量は、1号機が69t(400本)、2号から5号機は各々94t(548本)、6号機が132t(764本)とあるから()、BWR用8X8の燃料集合体というのは、1体あたり172kgのウランを持つということになるだろうか。
ウラン235の濃縮度については、3~4%程度としている。(

古い資料では、集合体のウラン重量は184kg、濃縮度は平均2.62%とあるが、その後改良がなされているものだろう。(

3号機については、再処理核燃料である、プルトニウムを含むMOX燃料体を一部使用している筈である。
MOX燃料はウラン235が1%、プルトニウムは3~4%とあるが、3号機の514+548+52本のうち何本がMOX燃料集合体かは今の所資料は見当たらない。

燃料集合体1体あたりのウラン172kg、濃縮度3.5%(ウラン235は6kg/体)として、全てウラン燃料集合体とすれば(MOX燃料体数不明故)、福島第一にあるウラン235は、85t程となるだろうか。

1号機から4号機だけだと、ウラン235は28t程度となるだろうか。

燃料集合体を使用して核反応を起こせば、放射性物質はどんどん増えてゆくという面妖なものなので、使用済み燃料集合体などはベツモノに化けているのだろうが、「素」であるウラン235について見れば、”リスクの最大値”はこのようなところだろうか。

福島第一の放射性物質の漏出は現在も続いているのだろうし、漏出総量については不明なところが多いが、6月6日のニュース(日経記事)では、原子力安全保安院は、1~3号機で事故直後から3月16日までに大気中に放出された放射性物質の量を従前の推算37万テラベクレルから、77万テラベクレルと試算し直している。
大気以外に海洋に漏出した分もあるわけで、今後も数値は変わっていきそうだが、漏出総量というのは最終的には100万テラベクレルを超える程度になるのだろうか。

核爆発による被害こそないものの、福島で漏出された放射性物質というのは、広島の原爆のそれの数十倍には達するものだろう。

救われるのは風向きからして、大部分は海洋に降下したと思えることだろうか。

参考;ソ連のチェルノブイリ原発事故の概要()。