ボーイング社は787のバッテリー問題の対策案をFAAに提示しているといい、その説明会を東京で開催したという。

◆◆◆引用ー日本経済新聞ネット

787運航再開「数週間程度で」 当局の承認は不透明
2013/3/15 12:05 ニュースソース 日本経済新聞 電子版  

米ボーイングのレイモンド・コナー民間航空機部門社長は15日、都内で記者会見し、新型機「787」の運航再開時期について「経験則から考えて数週間程度と考えている」と語った。ボーイングは近く改良型バッテリーを搭載した787の試験飛行を実施する予定。ただ、最終的に米連邦航空局(FAA)が運航再開を承認するかどうかはまだ不透明な状況だ。

 ボーイングは問題となったバッテリーの発煙トラブルを防ぐ対策として、バッテリーを構成するリチウムイオン電池の間に仕切り板を取り付けるなど3つの改善案をFAAなどに提示し、試験飛行を実施する許可を得た。試験飛行で安全性を確認したうえで、FAAの運航再開の承認をとれば、787の運航を再開できる。

 ボーイングは同日、電池の改善策に加え、製造段階で電池メーカーのジーエス・ユアサコーポレーションなどと協力し、4種類の試験を追加することなどで品質のばらつきを防ぐことも明らかにした。

 ただ、独立機関の米運輸安全委員会(NTSB)が統括する事故調査は難航しており、電池が発火した原因はまだ特定されていない。今回ボーイングが打ち出した改善案では、セルのショートを防ぐことは難しいとの見方も出ている。

 787はFAAなどが1月16日に運航停止を命令しており、全日空や日本航空なども運航をとりやめている。


http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD15021_V10C13A3EB2000/?dg=1
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この説明会の模様や、使用されたプレゼンテーション・スライドなどはボーイング社のサイトで見ることが出来る。

Technical briefing on the 787

バッテリー問題の原因は特定出来ていないので、問題が生じる80程の可能性を想定して、問題の発生を防止する対策を施すと共に、万一Cell Ventingが発生した場合でも火災等に発展しない工夫としている。

製造工程も含めてバッテリー本体を強化して”たくましいバッテリー”とし、充電器を改良して充電圧や放電の範囲を狭めて過充電・過放電の安全マージンを上げるとともに充電方法も変えて”バッテリーにやさしい充電器”とし、バッテリー本体はベント菅を有する特殊格納ケースに入れて万一発熱・発煙などが生じてもこれを閉じ込める”臭いものに蓋”の構造としている。

そもそも元々そんな危険なコトではないのだし、考えられるあらゆる対策は全て施した、さあこれで何が起きても大丈夫。
だろうか?

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Photo:ボーイング説明スライドより。
バッテリー本体の青箱の外寸は変らないといい、気密性を持った格納ケースは1.25インチ厚のスチールで、ベント菅は直径1インチのタイタニウム製だという。重量増加は両バッテリーで150ポンドだという。(
追記)ボーイングのサイトを見ると、格納ケースの板厚は1/8インチ・スチールのようである。これならば150ポンドに収まるだろうか。しかしこうなるともう軽量化のためという意味はなくなるが。
本来シンプルなものである蓄電池システムが、何ともエライお姿に。


バッテリー・インシデントの原因は未だ解らないわけだが、FDRの記録からは過充電はなかったものと考えられ、日航機・全日空機いずれの場合もバッテリーは使用されていなかった状態と考えられるから、過放電というのも考え難い。
バッテリーのセル内から問題が生じた可能性を否定は出来ない。

ボーイング社のこの対策案では、バッテリーのセル自体からの問題発生を防止することは保障できないわけで、Cell Ventingなどが生じた場合これを巧く閉じ込めることが出来たとしても、バッテリーは使用不能の状態になるだろうし、飛行システムのバックアップの一つであるバッテリーが使用不能の状態になれば、飛行を継続することは出来ないだろうから、ダイバート先に緊急着陸という事態になるのではあるまいか。

短距離の国内空路はまだしも、国際線などでのETOPS()飛行の場合は現行は180分ルールであり、787は330分ルールの取得・運行を目指すものだという。
飛行システムのファイナル・バックアップであるバッテリーが不能の侭、密封した格納容器内とはいえ発熱したバッテリーを抱えて何時間も飛行せねばならなくなる可能性を残すというのは、商業運行の許容の範囲を超えていよう。

バッテリー・インシデントは787フリートの総飛行時間52,000時間弱で2件発生しているので、”実績ベース”からは26,000飛行時間毎に当該インシデントの発生が考えられようか。

運航されている787は現在は50機ほどしかないが、今年中には月産10機にするというから直に世界中に増えるだろうし、この対策案で飛行再開した場合は、毎月世界のどこかでバッテリー・インシデントにより787が緊急着陸するという事態も起こることが考えられようか。

日航機や全日空機の事案があれだけの被害で済んだのは、果敢な消火活動や躊躇なく直ちに緊急着陸を決断した機長の適切な措置によるところが大なのであろう。

機上での機器の発火・発煙という事態は重く考えるべきことであろう。

”一刻も早く飛行再開を!”ということばかりに目が向いた場当たり的な対策というのは、大きな蹉跌に繋がり易いのではあるまいか。

航空機事故の原因究明というのは、時に機体そのものが海没や焼損していたりで、原因が特定出来ない場合も生じるのだが、今回はそのようなことはないので、時間はかかるとしても原因が解らないということはあるまい。

ボーイング社もGSユアサ社も大企業であり技術力も政治力もあるのだろうが、数百人という対策チームの技術者のパワーは、この問題の根拠を特定し、これを根本から除去することに向けられるべきであろう。

原因がまだ不明という今の状況で、安全を確保しながら飛行再開をしたいのであれば、問題となっているリチウム・イオン・バッテリーを取り卸すことは考えられよう。

暫定措置としてニッカド電池に変更するSBの場合、どのような問題が障壁として考えられたのか?の質問が記者たちから出ないのは不思議である。