ロシアの国防省が今回のマレーシア航空MH17便777機撃墜で、事件の真相を大々的に説明している。

Специальный брифинг Минобороны России по вопросам катастрофы рейса MH17 в небе Украины

当該機を撃墜した”犯人”として、ロシア側が得ていた情報から、2つの可能性を指摘している。

1. ウクライナ軍の地対空ミサイルBuk-M1の部隊が、MH17便撃墜時に当該地域に多数展開しており、撃墜当日には同ミサイルのレーダー稼動が顕著に増加している。 撃墜後には展開していた同地対空ミサイル隊は激減している。
 親露派勢力は航空機を保有しておらず、そもそもウクライナ軍がこの地域に地対空ミサイル部隊を展開する必要が存在しないのである。

2. 事件発生時にウクライナ空軍のSu-25攻撃機がMH17便に向って上昇、3~5kmの至近距離を飛行していた。 Su-25は、最大射程12km、射程5kmであれば確実に撃墜可能な空対空ミサイルR60を2発塔載する。 Su-25は短時間であれば高度1万メートルの飛行が可能である。
 ウクライナ政府は、事件直後にMH17便の附近に軍用機はいなかったとわざわざ虚偽の説明をしている。

ロシアは、収集していた情報からMH17便を撃墜したのは、この何れかであるという主張であり、直接攻撃したのが地対空ミサイルなのか?Su-25なのか?は、特定はしていない。
 衛星写真や航空管制記録、図表などこれだけの確実な証拠を示したのだから、誰が犯人なのか?は、あなた方が考えなさい、というところだろうか。

「ロシアは武装勢力にBuk-M1地対空ミサイルや、他の装備を渡したことは一切無い。」のだと言う。
 悪いのはいずれにしてもウクライナであり、ロシアは一切この撃墜事件には関係が無いというところを、しっかりと肝に銘じて欲しい、というところだろうか。

★以下おっさんの考察、

1.ウクライナ軍の地対空ミサイル部隊の展開
最近ウクライナ軍の、輸送機やSu-25対地攻撃機等の被撃墜が続いていた。
 やや劣勢になっているという東部親露派勢力が、ウクライナ軍の航空攻撃・航空支援を阻止しようとの意図なのであろう。
先週のSu-25被撃墜などは、ロシア領空のMig-29?より発射されたミサイルによるものとウクライナは主張している。
 ことの真偽は兎も角、ロシア軍が親露派勢力支援に経空で攻撃してくる懸念はウクライナにとって大きいであろう。
ウクライナ軍が防空ミサイル部隊を国境一帯をカバーするよう展開配備しているのは、むしろ当然であろう。

ロシアにとっても、ウクライナ国内の親露派勢力を本格的に武力支援する場合や、ロシア軍が直接侵攻する場合には、ウクライナの対空ミサイル網を先ず潰す必要があるだろうから、日常これの監視・把握に努めているだろうし、今回の会見ではその情報・偵察活動の一端を開示したものであろう。

 ロシア国防省会見では、ウクライナ軍のBuk-M1地対空ミサイルの配置やレーダ活動などを仔細に開示しているのだが、活動を指摘しているレーダーは同ミサイル・システムの目標捜索レーダー(9S18 Kupol-M1)であり、射撃管制レーダー(9S35M1 Fire Dome)の作動に関しての指摘はされていないし、ミサイル発射についての言及もみられない。

 国境地帯にあるウクライナ軍のBukーM1ミサイルが、高度1万メートルの目標に向けて発射されれば、これを監視中のロシア軍が探知しない理由は考えられないので、会見は寧ろ、ウクライナ軍によるBukーM1ミサイルの発射は無かったことを示唆していよう。
 
2. Su-25攻撃機による撃墜
スホーイSu-25は低高度での対地攻撃専用に作られた機体であり、実用上昇限度は外部塔載物なしのクリーンで7Km(7,000m)とされる。(Sukhoi Co.-Su-25
 Su-25は、MH17便の飛行高度であった1万メートル(FL330)への上昇は可能であろうが、機体運用の保障の無い高度であり、速度、上昇率はじめ機体の性能は極めて不安定な状態になるであろうし(要撃機動は出来難い)、同高度で安定して長時間滞空することも出来ないようである。
 空対空モードで使用出来るレーダーFCSも装備していないので、”目視要撃”になるが、目標の777は900Km/h、Su-25は400Km/hであったとのロシア国防省の説明であるから、目標との速度差は倍以上もあり、気象条件等も考慮すれば、目視要撃というのは現実的でなく、実行するのであれば、GCI(地上要撃管制)誘導が必須となるであろう。

 Su-25が塔載出来るAAMのR60は短射程IRホーミング・ミサイルであり、全方位攻撃が可能であると謳ってはあるものの、一回のチャンスの攻撃を確実に成功させるには、IRシグネチャーを確実に捕捉できる目標の後方一定の角度範囲の数キロメートル以内に占位する必要があるであろう。
 上昇率はじめ不安定な高高度でのSu-25の性能特性を熟知し、目標である飛来する777の未来位置のワンポイントに精密誘導する”神業”のGCI技術がいるであろう。

パイロットも、事前に高高度試験飛行や訓練飛行を積んで機体の高高度特性を把握しておく必要があるだろうし、これに使用する機体自体も、外部塔載はR60のみとして、不要なパイロン等も外すなど軽量化・低抵抗化する必要も生じよう。

ウクライナ空軍はSu-27や、Mig-29なども保有しているのであるから(ウクライナ空軍Wiki)、わざわざ用途違いのSu-25を使ってMH17便の撃墜にチャレンジする必要性も考えられず、話は”子供騙し”であり、些か”荒唐無稽”である。


ロシア国防省のこの会見では、大変興味深いことがある。

ロシアの2つ星の将軍による会見説明で、冒頭に、「MH17便は航空路から逸脱していた」との指摘がなされている。

航空路(エアコリドー)からMH17便は最大14Kmも北に外れ、航空路に戻ろうとして成功せず、同便は航空路を外れて飛行していたとしている。

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ロシア国防省会見で示された上図での航空路は「L69」となっているわけだが、MH17便のフライト・プランによれば、同便は「L980」という、「L69」の若干北方の航空路を飛行していたとされる。

「Filed Flight Plan Route MH 17:

EHAM – PAM – NYKER – ARNEM (UL620) – SONEB – OLDOD – SUVOX (UZ713) – OSN (UL 980) – MOBSA – POVEL – SUI – BAREP – KELOD – OBOLA – CZW -BADU – MASIV – INDIG – UTOLU – SUBAX – DERAM – LDZ (M70) – SOMOX – TOLPA – OKROD – BEMBI (L 980) – EDIMI – PEKIT - TAGNA – GANRA - TAMAK – SARNA (A87)…」(JACDECより)

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図はJACDECより。(参考JACDEC) ロシア国防省はL69(赤線の下)が航空路であったとしているが、MH17(MAS17)便の航空路はL980(赤線)。

L980とL69は、国境のTAMAKポイントで収斂して飛行情報区もここでウクライナ(UKDVFIR - Dnipropetrovsk airspace )からロシア(URRVFIR - Rostov-on-Don airspace)へと変わる。(参考:Air Traffic Management net)(Eurocontrol

撃墜事件発生前後に当該空域を飛行していたパイロットの話として、当時同空域には雷雲があったとの話があり、エアライナーが雷雲を避けるために一時的に航空路を外れることは有得る。

ロシア国防省はMH17便が航空路L69を外れたまま飛行していたとするが、同便はL980を飛行していたであろう。

モスクワの2つ星の将軍の認識がこの程度なのであるから、現場の下級指揮官や”義勇兵”の程度は推して知るべしであろう。

ウクライナ東部の高高度空域には定期旅客便の航空路があることは、ロシア軍やその指導下にある者は認識していたであろうが、MH17便を撃墜したBuk地対空ミサイルの射撃指揮官が、「航空路外を飛行する機体は、敵のウクライナ軍機である」との粗暴な判断であれば、民間機への誤射が生じてしまうこととなる。

ロシアがやるべきことはイイカゲンな仰々しい国防省説明会などでなく、国際調査団が事故現場に自由に入れる等科学的調査の保障をなす事なわけで、ロシアも国連安保理決議(2166)に同意したのであるから、今後の調査で明らかにされることと思うが、どうもこの辺に今回の撃墜事件の鍵があるような気がする。

NewYorkTimesに機体残骸に弾片弾痕とみられる破口がある写真が出ているが、ペレット状の弾片の貫通口に見え、やはりミサイル、それもR60といった小型弾頭(R60弾頭重量3kg)ではなく、被弾状況からもっと大型のミサイル弾頭(Bukミサイル弾頭重量70kg)によるものに見える。

Wreckage Offers Clues on Why Flight 17 Went Down」ーNewYoukTimes