7月21日のロシア国防省のマレーシア航空機撃墜事件説明で、ロシアが”犯行容疑者”として名指していたのは、ウクライナ軍のBuk-M1地対空ミサイルと、同じくSu-25攻撃機であるが、犯行容疑のウクライナ空軍のSu-25がMH17便撃墜に使った”凶器”として、「R-60 AAM(空対空ミサイル)」の名が挙げられていた。

R-60 AAMが民間機に対して使用された事例がある。

1988年8月に、ボツワナの政府専用機BAe-125-800Aが、飛行中に、アンゴラ空軍のMig-23からR-60AAM2発による攻撃を受けたと言う。

一発目がNo2エンジンに命中して同エンジンが脱落し、2発めのR-60は落下するNo2エンジンに命中したという。

被弾した同機は何とか墜落を免れて、不時着に成功し、搭乗していたボツワナの大統領以下乗員は全員生存している。

Aviation Safety Network -Criminal Occurrence description

BAe125-800Aはビジネスジェットであるが、双発のエンジンの1基にR-60が命中したが、何とか不時着出来たのは、R-60AAMの弾頭が3Kg~3.5kg程度と小型であることによるものであろう。

R-60はIR(赤外線)ホーミング・ミサイルであるが、なかなか精確に最も大きなIR源であるエンジンに、命中するようだ。

777に対してR-60で攻撃した場合、同AAMは777のエンジン部に命中する確立が高い。

エンジンは破壊され、消火に失敗すれば火災が生じようが、直に主翼の構造部などが破壊されてしまう事態にはなりそうにない。

少なくとも非常事態を通報する時間的余裕はあるであろうし、両エンジンがやられたとしても、不時着に成功する可能性も十分に考えられよう。

今回のMH17便は非常事態通報の間もなく、瞬時に破壊されているので、R-60AAMが使用された場合とは状況が大分異なるといえよう。

R60M (480x640)
スロバキア空軍のR-60AAM。小型の短射程AAMである。

Su-25は30ミリ機関砲を装備しているが、空対空射撃で777を撃墜するのは、R-60AAM使用よりも遥かに難しくなる。
それも高高度性能の劣る機体で、一航過の一撃で確実に777のコックピット部などの破壊を計画し、それが実行出来るとするなどは、現実的な話ではない。

ウクライナ空軍のSu-25は、7月16日に1機、MH17便撃墜事件後の23日にも2機が撃墜されているという。 ウクライナ東部の親露派分離勢力への対地攻撃に、Su-25は相当に投入されているようであるから、MH17便が撃墜された17日にもSu-25が東部空域で作戦中であったことは考えられるが、同機がMH17便を撃墜したとする根拠は否定される。