「停戦」協定が成立したという。

先週始めからのウクライナとロシア両大統領の電話会談による合意に基づき、金曜(9月5日)には隣国ベラルーシのMinskで、ウクライナ、ロシア、”ドネツク人民共和国”、”ルハンスク人民共和国”それにOSCEの代表も交えて、停戦協定が締結されている。(OSCE

実質はウクライナとロシア間での停戦協定であるが、ロシアはウクライナに対する軍事的干渉は一切行ってはいない(ロシアの声)、という公式姿勢であるから、この地域の平和の実現を誠実に希求する我がロシアの積極的仲裁活動により、紛争発生の責任者であるキエフ政権と、地域人民の唯一の正当な代表である、ドネツク人民共和国およびルハンスク人民共和国の間において、停戦が成立する運びとなった、と言うところだろうか。

ドネツクやルハンスクの親露派武装勢力というのは、各種傭兵の寄せ集めを主体とするもののようで、その資質はあまり優秀とは言えず、ロシア製最新兵器・重火器の供与や、浸透したロシアの軍事顧問の作戦指導下でもウクライナ軍に対して劣勢であり、8月下旬にはかなり圧迫されて、そのまま鎮圧されてしまう気配さえ窺えたが、戦車・装甲車・自走砲それにSA-22自走地対空ミサイルなどを装備する火力・機甲・防空力の充実した、すくなくとも機械化旅団規模以上と思われる有力なロシア軍部隊が、東部および南部国境地帯より侵攻し、形勢は逆転している。

国境南方海岸地域に新たな戦線が形成されれば、東部で戦闘中のウクライナ部隊は側面を脅かされ、下手をすれんば包囲されるから攻勢どころでなくなる。
それまでの攻勢から守勢防御配置に態勢を転換するわけだが、ロシア軍火力はその余裕を与えず、精密な集中火力発揮で随所にウクライナ軍を破砕していたようだ。
備蓄弾薬類はおろか、戦死者の収容も出来ずにこれを遺棄したまま後退した様子などがYoutube等に映されている。
捕虜も数百人規模で出したようであり、ウクライナ軍前線部隊は”潰走”したといってよいのだろう。

さすがはロシア陸軍、”格の違い”を見せたというべきか。

元々が常備軍57,000という(Wiki)小規模なウクライナ陸軍であり、戦力の回復には時間が要るであろうし、今後は、東部の親露派武装勢力にたとえ攻勢を掛けたところで、ロシア軍が何時でも参戦して来ると言うのでは作戦の勝算など到底成り立たないことになる。

ロシアにとっても、戦闘参加する以上損害が皆無とはいかないので、戦傷者が増えてくれば、国内報道規制には成功していても、人の口伝で戦争の実態が広まり、折角これまで高めてきたプーチン政権支持への不信拡大にも繋がりかねない。

停戦発効ともなれば、高まっていたロシアへの経済制裁発動も、経済制裁はお互いに痛みを伴うことであるから、制裁発動は”もういんでね”という国や意見も出てこようか。

今回の停戦協定締結への環境条件は整ってきていたというところだろうか。

停戦の発効に伴い、ロシアは人道支援のトラック隊を再度ウクライナ東部に送るというが、前回も人道支援活動であるからキエフ政権の承認や国際赤十字の同道なども不要としていたが、今回ドネツク人民共和国やルハンスク人民共和国もそのウクライナでの特別な地位が承認されたことであるし、今後は両国からの要請で人道支援は行えるのだろうから、ロシアのウクライナ東部への影響力は格段に強まるのであろう。

ウクライナとロシアとの国境は陸路2,000kmほどのようだが、東部南部地域の紛争地帯の国境は1,000km弱であろうか。
停戦の監視や紛争地国境の監視はOSCEが担うことになるといい、現在20名に満たない監視要員を60名に増員しその後も要員を確保して増員するのだとはいうが、非武装(軽武装?)のOSCE監視要員を排除するのは容易なことであろうし、国境地帯で兵器や戦闘員の流入をOSCEが確実に監視出来ると期待するのは難しいであろう。

プーチンのロシアにとってみれば、かつての東欧同盟諸国を欧米は次々と侵蝕して来ており、軍事同盟に他ならないNATOは今やポーランドや、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト海三国までもその手中にしている。
東欧諸国での経過をみれば、放って置けば何故か欧米”西側”に傾倒してゆくのは明らかなこと。
ウクライナが現在「非同盟中立」とするのも、欧米に傾倒し、NATO加盟に至るためのステップに他ならない。
”ロシアの柔らかい下腹部”であるウクライナに、欧米NATO軍が進駐し、黒海にNATO海軍の基地が出来てしまうような事態は、プーチンにとってロシアの安全保障上決して容認出来ないという事なのであろう。

ウクライナは、クリミア半島の奪還はもちろん、東部国境地域も施政権を放棄してロシアに委ね、”新たな国境の新生ウクライナ”として早々にNATOに加盟して、集団安全保障の中で国の安全を保持して欧州の一員として歩むか、或いは、終生NATO非加盟をプーチン様に誓い、ロシアの”同盟国”としてその隷属の下に生きるか?、の現実的な選択を今後迫られることになるだろうか。

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