北朝鮮が開発中のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)だが、「国家最高指導者金正恩第一書記兼国防委員長の直接指揮により、潜航中の潜水艦からの強力な戦略弾道ミサイル発射試験に完全に成功したニダ」との北朝鮮による発表があった。(参考:労働新聞ー主体104年5月9日

今まで商業衛星の低解像度写真でしか見ることの出来なかった「シンポ型潜水艦」や、「KN-11」SLBM本体の写真も公表されており、なかなか興味深い。

4月22日に新浦沖で水中プラットフォームからのSLBM射出試験が行われたとの米軍情報筋のニュースがあった()ので、4月22日に行われた時のものか、あるいは水中射出試験の成功を確認したそれ以降に金正恩が臨席して試験が行われたものであろう。

SLBM自体は見たところ旧ソ連のR-27(SSN-6)そのものである。

旧ソ連のR-27SLBMは1962年から開発が始まり1968年より配備が開始され、その後改良型を加えながら1990年頃迄現役にあったというから、基本は60年代の技術による潜水艦発射弾道ミサイルであり、工業レベルが一般的に貧弱である北朝鮮にとっても製造や運用、整備に無理がないことであろう。

R-27はロケット・モーターをフュエル・タンク内部に組み入れることで全長を短く纏めたり、2基の姿勢制御用ロケットモーターの配置にも工夫を凝らし、液体燃料も長期充填保存が可能なもので長期のパトロール任務を可能とする等、当時としては革新的技術を取り入れたSLBMであり、射程の延伸と整備性や即応性等の全般性能も著しく向上しており、合計1800基ほどが生産されたという。

R-27はソ連海軍の演習・訓練で実射される機会が最も多いSLBMであったと言い、492発が発射され、うち429発が成功していたというから(他にR-27Uが161発発射、150発成功という)、信頼性も高く所謂使い易いSLBMであったのだろう。

潜航中の潜水艦からのR-27の射出方法は、冠水した発射筒内でミサイル本体のロケットモーターに点火し、ミサイル底部のドッキング・アダプターによりガス・バブルを発生させてロケット推力による発生水圧を排出してミサイルを射出、海面上に射出されたミサイルは其の儘本体ロケットモーターで飛翔してゆくものという。(Global security org. R-27
記述が簡潔でいまひとつ詳細が不明だが、ミサイル本体のロケット・モーターのみで射出されるものとすれば、西側のアプローチと違ってミサイル射出用の別途動力装備を要せず、シンプルな構造のようで興味深い。
ただ、点火時のロケットモーターの制御と潜水艦の射出時深度については制限が多いことだろうか。

北朝鮮はソ連邦崩壊直後の混乱期にR-27SLBMの技術移転を図ったものとされるが、技術資料やミサイル開発・関係者による技術指導ばかりでなく、R-27ミサイル本体も入手していたとも云われる。

R-27の弾頭ペイロードは650kg、0.6~1.2MTの核弾頭であったと云うが(単弾頭のMod1&Mod2)、核弾頭そのものは兎も角として、北朝鮮はミサイル側の弾頭部艤装についての技術的資料も入手したのであろうし、あとはミサイルに塔載出来る程度の大きさに核の小型化が出来れば核SLBMが完成することになる。

ジープ等に塔載して発射する核無反動砲「Davy Crockett」のW-54や、203mm砲弾内に組み込むW-33といった超小型核弾頭を米国が開発したのは、1950年代のことである。

北朝鮮が弾道ミサイルに搭載可能な程度の小型核弾頭を開発出来ることを疑う余地はないであろう。

R-27SLBMの開発にあたり当時ソ連は計35発の試験発射と6年の歳月を費やして同ミサイルを完成させているが、北朝鮮のSLBMはR-27のほぼデッドコピーのようであるから必要なのは性能確認試験のみであり、いわば答えの出ている問題を解くような話であるから、その気であれば数年で実戦配備が可能であろう。

隠密性・生存性・弾道ミサイル防衛網突破能力が高い潜水艦発射核SLBMを保有すれば、「米国などが共和国に全面戦争で侵攻・占領するようなことはもう出来なくなる筈」と考えれば、北朝鮮の挑発行為がエスカレートしてゆく可能性は考えられようか。

かなりな挑発行為を仕掛けたところで、北朝鮮が新たに失うものは何も無く、全面戦争が出来ない以上相手は平和交渉のテーブルに乗って来るほかなく、美味い条件を得る機会が作為できると考えるだろうか。

核兵器というのは使い難いものではあるだろうが、保有する核兵器を北朝鮮が使うか否かは独裁者金正恩の意思次第の話である。

究極の場面で北が核兵器を使用する事があるとすれば、相手が米国では報復核攻撃で北朝鮮は完全に消滅せられるであろうし、韓国では親族・同胞を多数残虐に殺戮することになる。中国やロシアを相手にということも可能性は低い。
日本ということになるのだろうか。

shinpotest
シンポ型潜水艦。排水量は水上±1,500t/水中±2,000tというところだろうか。これまで建造したなかで北朝鮮最大の潜水艦になる。潜舵は艦首配置。船型は葉巻型のようである。
セイル後部に固定?マストが見えるが、ミサイル試験用の計測装置やカメラ等用の臨時設置のものだろうか。

nkssbntest
セイルは高さ5m幅2m+程度だろうか。SLBM発射筒は1基のようである。
推進軸が何軸なのかも気になるが、先進諸国潜水艦のような1軸艦ではなく2軸艦である可能性が高そうだ。
ちなみにサンオ級は1軸。ロメオ級は2軸。ゴルフ級は3軸艦であった。
おそらく2基塔載するであろうディーゼル機関は、ロメオ級の37D(2,000HP)は国産したのだろうからこれの改良型か、塔載するのが高性能ディーゼルであれば中国経由での輸入品ということになるであろうか。

shinpobow
大型の潜水艦であり乗員数もかなりなものである。陸式の制服の者も見えるのでSLBM試験関係者乗艦でとくに多くなっているのであろう。艦首部が写っている写真が見当たらないが、艦首上部には大型の捜索ソウナーがある筈であり、ソウナーの窓等見せたくないのであろう。
ロメオ級などと同じく艦首の潜舵は後方格納式であり、排水口(free flooding holes)が舷側に無数並んでいるのはいかにも古臭いが、SLBM関連装備を搭載するので、船体の設計・建造に当っては技術的な冒険はせず手馴れた確実で手堅い手法を執ったというところだろうか。
音響タイルやAIPなどというのは、未だとてもとても・・・だろうか。

KN11b
北朝鮮の弾道ミサイルには「金星」「木星」等星の名が付いているといわれ、このSLBMに書かれた文字は「北極星ー1」だという。KN-11の名称は「北極星1型」というところになるだろうか。
ミサイル本体も発射方式もR-27そのもののようである。
北朝鮮方式に多少の改良はされているとしても、基本性能は弾頭ペイロード650kg、最大射程2,500km~3,000kmで変わるまい。

kn11a (534x401)
発表写真の信憑性や潜水艦から発射されたとするのを疑問視する向きもあるが()、北朝鮮がSLBM開発の技術を保有しSLBM開発配備の方向に進んでいることは疑いようが無いであろう。
それにしてもかなり斜めに角度が付いて射ち出されているが、姿勢制御が可能な範囲であれば実用上問題ないとはしても、射出時の安定性には改善の余地がありそうだ。

幸か不幸か、北朝鮮は世界交易の交通の要衝にもなく、石油エネルギーなどの戦略資源の産出があるわけでもないので、本来であれば世界の誰も敢えて注目しない地理にあるわけだが、緊張を高めることを作為し意図的に危機を煽ることで自国に注目を惹こうというのであるから、性質が悪い。
三代目独裁者の火遊びで極東の危険は増すだけである。

4D10
R-27のロケットモーター部。4D10と言う主ロケットモーターと4D10Vという45°のアングルで取り付けられた姿勢制御用の2基の小型ロケットモーターよりなる。ジェットエンジンなどに比べると極めてシンプルなものである。(参考: