目達原でAH-64Dが民家に墜落したとのニュース。

JGSDFAH64
Photo:JGSDF(日本陸軍)

 50時間点検と、1750時間で交換となっているローターヘッド・アッセンブリの交換整備を行った後の試験飛行中の事故発生であったという。

 仰天な事であるが、「飛行中にローターが吹っ飛んでしまった!」ようである。

 4枚のローターのうち少なくとも2枚が空中で脱落しており、機体墜落位置より其々500m、300m程離れた場所で発見されたという。

 見ると先ず目が行くであろうローターの結合ピン云々などでなく、ピッチハウジング・アッセンブリの結合部のところから破断脱落している。

AH64pitchhousing
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MainRAssyAh64

AH-64D_rotorMaintenance
Photo:US ARMY(米国陸上自衛隊)

 整備マニュアル(AH-64Aのであり都度改訂もされるものなので参考程度だが、機体構造はDも基本的に同じである)を眺めると、ローターヘッド・アッセンブリや上部ベアリングは確かに1750時間で交換となっているが、ピッチハウジングのほうは耐用時間が長いので、ピッチハウジング部はそのままを再取付しローターヘッド・アッセンブリを交換しているであろうか。

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 俺は整備士でもないし門外漢のタダの野次馬なので詳細は知る由もないが、陸自航空の野整備隊でも、整備作業は所要の教育を受け資格認定された複数の整備隊員が、整備作業指示書により機体整備マニュアルに則り作業をするのであろうし、さらにはこれも資格認定された検査隊員が規程の部品材料が使用され指示通りの作業が為されたかをチェックするのであろうし、最新鋭戦闘ヘリの飛行の重要部である部位の整備作業でもあり、ベアリングの玉ころ一つ、ボルト一本間違っても重大事故を招くことは皆認識しているであろうし、ポカミスがあって2重3重とそれが見過ごされると言うのも些か考え難いことである。

 交換したローターヘッド・アッセンブリのほうに強度の問題があり飛行中破壊が生じたとすれば、補給部品管理上で何か問題は無かったか、更には製造メーカーの当該部品製造上の品質管理の問題となるだろうか。

 いずれも些か考え難いような話だが、機体の設計・製造・整備・運用・・・すべては神ならぬ生身の人間のすることであり、「考えられない事が起きるから事故となる」ものであろう。

 飛行データはじめデータ・レコーダー類が回収されており、ローターヘッド部位や脱落ローター部位なども焼損せず回収されているようであり、金属振動疲労や破断・破壊といったことでは防衛装備庁の研究所にもその道の専門家はいるだろうし、産業界・学界にも金属には些かウルサイその道の大家は多いことであろうから、ローター脱落の原因は比較的早く特定出来ることだろうか。

 今は未だ事故直後であり、事故原因はあらゆる可能性が排除できない段階であろう。

 早速設けられたという陸自の当該事故調査委員会が、予断や忖度を排し手順を踏んだ厳正な事故調査を行って、今回の事故原因を特定し、改善策を考え、二たび同じ事故が生じないよう処置することが、亡くなった2名の搭乗員や、迷惑をかけてしまった地元住民への、真の供養・お詫びということになるのであろう。

 AH-64が墜落した家には小学5年の女の子が一人で留守番していたようだが、俊敏な女の子なのであろう、直ぐに窓から避難し膝に軽い打撲を負っただけで助かったという。

 今回このニュースを聞いた時に、思わず数年前に生じた調布での墜落事故を思い出した。

 パイパーPA-46-350Pという単発軽飛行機の墜落事故であったが、105ガロンほど残っていたと思われる航空燃料の火の勢いが激しく、墜落した家に居た住民の娘さんを殺してしまっている。

 AH-64Dは戦闘ヘリであり、装備している燃料タンク部位はケブラーなどを使用した対弾性の高い自動防漏式の燃料タンクであり、満タン状態で65フィートの高さからの落下衝撃に耐えるとされてはいるが、今回のような墜落ではさすがに破壊され燃料が漏出して火災が生じたのであろう。

 230ガロンの増槽や、機体内30ミリ弾薬ベイにも100ガロンもしくは130ガロンの増加燃料タンクを設置出来るようだが、今回事故の機体はそのようなものは装備せず本来の機内タンクのみの燃料であろうが、それでも満載で376ガロンほどになるであろう。 当該事故機がどれほどの残燃料であったのかは知らないが、「大量の燃料」ではあったろうか。

AH64FuelSys

 燃料自体は自衛隊で使用しているのも安全性の高くなったというJP-8系だろうし、灯油系であるからアブガス(航空用ガソリン)よりは遥かにましではあろうが、大量の燃料を搭載した8トンほどの金属の物体が加速度を付けて家に落下突入して来、火災が発生したのであり、家に居た小5の少女はよくぞ助かったものである。眞に間一髪、奇跡的である。

 殉職された機長は同対戦車ヘリ隊第2飛行隊長だそうで、AH-64Dロングボウアパッチには導入当初より携わってきた大ベテランであり、総飛行時間2700時間、AH-64には1600時間とか聞くのでAH-64戦闘ヘリの全てを知り尽くした逸材であったろう。 もう一人は一年前に同戦闘ヘリ部隊配属となった新進気鋭の若い操縦士であり、どこまで伸びるのかこれからの成長が楽しみなことであったろう。

 どんな高性能機材でも扱うのは人間であり、戦力というのもつまるところは人である。惜しいことであった。

 ローターは日本語で回転翼と言うが、よく言ったものである。 

 翼が無ければどんな航空機も飛ぶことはできない。 鳥でさえ翼無しでは落下しよう。

 ローターを失ったAH-64は完全にアンコントローラブルであったろうが、操縦士は「何か(コントロールが)効かないか?!」と最後まで操縦系から手を放さなかったことだろうが、完全にコントロールを失って只落下する乗機の眼前に民家が迫って来た時には取るべき手段は唯一、「502号機よ。我が五体は四分五裂に粉砕するとも、何の関係も無い地上の人間に死傷を出してくれるな!」との念力しかなかったことだろうか。

 墜落した家に居た女の子は火傷を負うことも無く奇跡的に無事であった。 操縦士の念力の声が天に届いたものだろうか。