昨年末のFCレーダー照射事件(発生12月20日)の時に、韓国艦が救助したという北の遭難漁船だが、大和堆辺りでイカ密漁や、時おり北海道や日本海沿岸に漂着する木造漁船のタイプのようである。

NKFboatSKCGJapanSeaMt
4空群P-1撮影のビデオより。

NKBoatSKresc
韓国国防部が反論として最近公開したビデオより。

 集魚灯やイカ干し棚?の上構と簡素なブリッジを有する日本海でよくみられる粗末な北の木造漁船だが、この遭難漁船は外見からは損傷などは見られず浸水の様子も覗えない。 「遭難漂流」していたとすれば、機関の故障や燃料切れといったところだろうか。

 DD971広開土太王は該漁船よりかなり距離を置いた位置(1000yard程度)にあり、該漁船の周りに見える2艇のボートは巡視船5001参峰の搭載艇であり、実際に「救助作業」を行っていたのは韓国コーストガード(CG)の大型巡視船5001参峰であることが解る。

 DD971広開土太王は搭載艇すら下ろしていないことから、直接の救助作業は行っていなかったことが解る。

 該北朝鮮漁船が武装している等の情報があり(現在そのような報道は見られないが)重武装の軍艦であるDD971に出動が令せられた可能性も考えられるが、漁船のサイズからして可能な武装は携行小火器程度であろうから、制圧にはCG巡視船の機関砲等で十分であろうし、とくに5001参峰は韓国CGのなかでも最大の5000t級巡視船の一隻であり、武装北朝鮮漁船程度への対応に問題は無い。

 DD971は「全般作戦支援で警戒配備」に就いていたものと考えられようが、1000yardも離れていては機関銃などでの制圧射撃は奏功が期待できないし、5”砲では木造漁船などコッパミジンになってしまい威力過大であろう。 だいいち近傍の巡視船に危害が及びそうである。

 DD971広開土大王は該北漁船の不測の行動への警戒というより、外周からの妨害脅威に対する警戒配備だった可能性が高いことになろう。

 該遭難北漁船発見の経緯だが、「漂流中だった北の漁船が近くの船舶に救助信号を送り、わが軍が海軍駆逐艦(広開土大王・3200トン)を派遣し、救助作業を行った」(韓国軍消息筋・ソウル聯合ニュース2018/12/22)としている。

 北の木造漁船は無線機を積んでいないものも多いのだろうから、該遭難北漁船は何らかの方法で航行する船舶に救助要請を行い、航行中の船舶が韓国当局に通報したものと考えられようか。

 シーマンの常識として遭難した船舶に遭遇すれば、国籍の如何に拘わらず’直ちに救助するだろうし、何らかの理由で自船では救助不能であれば当局に救助を要請し、水・食料・医薬品等出来るだけの援助は行って当局救助船の到着を待ち、救助開始を見届けてから現場を去るであろう。

 P-1や韓国の撮影映像からは、該北遭難漁船から救助信号を受けた船舶というものが全く見当たらない。

 該北遭難漁船の位置であるが、「出動した駆逐艦は遭難した北の船舶を迅速に見つけるため火器管制レーダーを含むすべてのレーダーを稼働し、この際、近くの上空を飛行していた日本の海上哨戒機に照射された」(韓国軍消息筋・ソウル聯合ニュース2018/12/22)と説明していたが、P-1の撮影映像でそのような状況では無かったことが解っている。 捜索ということをあまりせずに該北漁船を発見しているようであるから、かなり正確な位置情報があったものであろう。

 救助されたと言う遭難北漁船乗組員であるが、「20日に救助した北朝鮮船舶の3人の乗組員と1人の遺体を22日に板門店(パンムンジョム)を通じて北朝鮮に送還した。」(韓国政府・中央日報2018/12/24)とあるので4人乗り組みだったことになる。

 「救助された北朝鮮の漁船は1トン未満の木船で、4~5人が乗っていたようだ。」(ソウル聯合ニュース2018/12/22)との報道もあり、確かに小型木船であれば4人乗り組みでよいのだが、今回の映像に見える北遭難漁船はより大型の木造漁船であり、通常8人から10人程度が乗組んでいるものである。

NKFishboatsmall2
3人が保護され1人の遺体があった漂着小型木船

NKFboat9mLJan819
先日の乗員4人の漂着小型木船

NKFishboatsmall
5人の姿が見える小型木船。

NKFboat02
漁師の番小屋から盗みも働いた北木造漁船。10人乗り組み。
NKFishboatsep17
日本海の北木造漁船。
NKFishboat
同上。

 全て人力頼みの北朝鮮漁船で今回程度の大きさの船で4人乗組みでは録に漁労が出来まい。 乗組員が4人であったというのは少なすぎ違和感がある。

 遭難北漁船の船体であるが、損傷も無く沈むようでも無く乗員救助後に船を其の儘漂流させることは無いから、船体は港に曳航して検分なりするであろう。 北朝鮮は船体の返還も求めて来るであろうし、船体も返還すれば救助乗員・遺体の返還とともに南北融和のまた一つの象徴となるニュースであるから時節柄大いに報道されて然るべきだろうが、乗員や船体関連報道が全く見られないのも些か奇妙である。

 当該遭難北朝鮮漁船は一体どこに消えたのか?

 韓国報道では「人道的な救助作戦」という言葉を使っているのだが、「人道的救助」とした場合には単なる「人命救助」よりもも少し広い範囲の行為が含まれるのであろうか。