EUがイラン原油を輸入禁止する前に逆に欧州向け原油輸出を止めてやる!とか、核開発をやめる積りは無いとか、ホルムズ海峡の封鎖は簡単だとか、相変わらずイランは意気軒昂なようである。
さてその力の背景となる軍事力だが、イランにも陸・海・空軍があり、更に2008年に空軍より分離独立した防空軍の、4軍があるという。
更に独立した組織として、「革命防衛隊」(Army of the Guardians of the Islamic Revolution)というのがあり、これも陸海空軍及び、対外工作活動等にあたる特殊作戦軍(Quds Force )よりなるという。
民間防衛・民兵組織である「バシィージ」(Basij)というのも、この革命防衛隊が掌握しているのだという。
国防軍組織が、通常の「軍」と「革命防衛隊」という指揮命令系統が全く異なる非合理的な2重構造になっているのは、現体制は1979年の革命による暴力で権力を奪取した政体であり、自身が最も危惧するものは軍部によるクーデターや民衆蜂起など力による政体転覆であろうし、イスラム革命の志操堅固な精鋭親衛隊である革命防衛隊を設置することで、軍内部や民衆内の反イスラム革命行動に目を光らせているのであろう。
イラン国軍はイラン国土を防衛し、革命防衛隊はイスラム革命を守る、というところのようだ。
イランが装備する兵器体系は、革命以前の米英供与兵器も一部未だ現役だというが、第一線の近代兵器群は、中国、ロシア、それに北朝鮮より導入されている。
元来が陸軍国なのであろう、イラン国軍、革命防衛隊ともに陸上戦力に重点が置かれているようで、陸上兵力が突出しているが、陸戦の王者である機甲戦力(戦車)は国産戦車の開発もしていると言うが、主力はロシア製、中国製であり、北朝鮮の「天馬号」戦車を導入運用しているというのも興味深い。
海軍は英国流のようだが、駆逐艦やフリゲートといったイラン海軍の”大型艦”は、近代的な米欧海軍に対抗出来るようなものではなく、奇襲による開戦など余程な状況でもない限り、有事の際は早期に無力化されると思われるが、中国製対艦ミサイルを搭載した小型ミサイル艇群は、数も多く、これを完全に掃討するには相当な日時を要することも考えられ、ホルムズ海峡はじめペルシャ湾の艦船に相応な被害を生じせしめる可能性はあるだろう。
士気が高いと思われる革命防衛隊海軍の主力装備も、小型ミサイル艇である。
20隻あまりの潜水艦勢力は注目される。
現在17隻就役しているという国産小型潜水艦(Ghadir級)は、北朝鮮の技術協力によるものといわれ、魚雷発射菅を2門装備しており、艦船雷撃や機雷の敷設、特殊部隊の浸透作戦能力を持つものと思われる。
小型潜水艦は、平均水深50m、最深部でも90mという、25万平方キロの比較的狭く浅いペルシャ湾での活動に適したものだろう。
3隻のロシア製最新型ジーゼル潜水艦キロ級(Kilo級)は、大型であり作戦行動日数も長いので、ペルシャ湾内よりもアラビア海での活動を指向したものであろう。
隠密性の高い潜水艦勢力は今後も増強が続くと思われるが、20隻あまりの潜水艦を捕捉し、その戦力を完全に殲滅するには相当な日時を要することも考えられ、海上船舶交通には脅威となりうるだろう。
イランに陸上侵攻して、海岸線をはじめ数百キロの縦深地帯を制圧すれば話は別だが、潜水艦、小型ミサイル艇、機雷敷設、陸上発射型自走式対艦ミサイル・ランチャーを、航空作戦だけで完全に阻止・殲滅するにはかなりな日時を要するだろうから、イランが一定期間、ホルムズ海峡はじめ沿海部の海上輸送を阻止する能力は持つと見るべきだろう。
空軍の保有する作戦機には、革命以前の米製供与機と、それ以後に導入されたロシア、中国製の機材が混在しており、”多種雑多”な機種構成となっている。
ロシア製・中国製の機体も含め、大部分が旧式機であり、とても今日の米欧の航空戦力に対抗出来るものではない。
イラン空軍の航空作戦遂行能力には、自ずから限界があるだろう。
国産戦闘機の開発も行っているのだという。
革命前に供与された米製F-5を、ノンライセンスでほぼ丸ごとコピー生産したもの(HESA Azarakhsh)があり、それを改良した新型戦闘機(HESA Saeqeh)が近年飛行しているが、機体の基本設計が旧式で、性能改善には限界があるものであり、量産配備したところで米欧の現用戦闘機にとても対抗出来るものではない。
この新型戦闘機は量産配備が進んでいないようであるが、弾道ミサイルなどの非対称戦力の整備拡充のほうに傾注するというのは、寧ろ賢明な選択であろう。
米欧の航空戦力に拮抗出来るような近代的な空軍を建設することは当面不可能であるから、防空作戦は航空機には頼れず、対空ミサイルなど高射部隊を主体としたものに成らざるを得ず、近年空軍から対空ミサイル等を運用する高射部隊を独立させて、防空軍として一元的な運用としたのは、納得出来る改編であろう。
もっとも注目されるのは、弾道ミサイルであろう。
海峡封鎖の主力となる対艦ミサイルは中国系だが、周辺諸国への投射火力となる弾道ミサイルは、北朝鮮の技術支援を得ていると言われる。(注)
元々はソ連の設計になる射程数百キロのスカッド・ミサイルも北朝鮮から輸入しているようだが、北朝鮮がスカッド・ミサイルをベースに拡大改良した中射程弾道ミサイル、ノドン(射程~1,500Km)の技術がイランに渡っているとされ(注)、「シャハブ(Shahab)」の名称で生産配備され、これの射程延伸改良が継続されている。
シャハブは1型から3型までの存在が知られており、3型の射程はほぼ2,000kmに及ぶと言われるから、イスラエルはじめ中東全域に投射火力が及ぶことになる。
射程を延伸するに従い命中精度は普通は落ちるものと考えられ、弾道ミサイル自体が元々ピンポイントで目標を狙うものでなく、面制圧火力であることを考えると、イスラエルはじめ中東周辺諸国の軍事目標や重要目標をピンポイントで攻撃破壊することは難しく、シャハブ・弾道ミサイルというのは寧ろ都市部などへ火力投射する事で政治的な効果を狙う兵器なのであろう。
シャハブ等の弾道ミサイルの運用は革命防衛隊が全て担っているというのも、戦略兵器としての位置付けなのであろう。
3,000km+の射程を持つといわれる「ムスダン」も、2005年に18発が北朝鮮からイランに渡っていると言われるが、存在は今のところ確認出来ない。 この種の弾道ミサイルをベースにしたものが生産配備されれば、欧州の大半が射程に入ることとなるだろう。
更に射程を延伸して、米本土を攻撃出来る弾道ミサイルの開発を指向しているとの説も有るが、技術的経済的に可能であれば、そのような戦略兵器の保有に向かうことは不思議ではない。
戦略兵器である以上、シャハブなどの弾道ミサイルに、核弾頭の搭載を可能とすることを目指すのは、寧ろ自然であろう。
イランと相互に弾道ミサイルの技術協力関係にあるとされる北朝鮮も、弾道ミサイルを核兵器の投射手段と考えている事は興味深い。
北朝鮮が2009年にテポドン2号を打ち上げた際、イランの技術団がこれに立ち会っていたとの話がある。(注)
弾道ミサイルの開発について、イランと北朝鮮は相互に密接な技術交流を進めているものと推察されるが、日本がイランに支払っている年1兆円あまりの原油代金などの豊富な資金を投入し、開発したイランの核弾頭技術が、北朝鮮に渡り、日本を標的とするノドンなどの核弾頭として装着されるとしたら、笑えない話となるだろうか。
米国は予算面の制約から国防予算は今後大幅に圧縮され、軍備縮小の方向にあり、陸上兵力は8個旅団を廃止して常備49万の態勢になるという。
イランに本格的に陸上侵攻しようとすれば、50万+の陸上兵力は必要だろうし、現在の米欧諸国の情勢で、陸上侵攻可能な兵力と戦費を結集する事はかなり難しいところであろう。
空爆だけなら、国民が結集こそすれ、体制が崩壊することは無い。
米欧は陸上侵攻はして来れない。
一定期間ホルムズ海峡など海上オイル・ルートを封鎖するのは可能であるし、イラン自身にも影響はあるが、米欧など世界経済に大きな打撃を与え、上手くすれば国際社会の結束も綻び、イラン制裁など吹き飛んでしまう可能性も考えられよう。
かなりな事態に進展したところでイランは存続する。
相当強気な判断をイランがしているとしても、不思議ではないだろうか。
参考:
Wiki: Armed Forces of the Islamic Republic of Iran
Globalsecurity org: Iran Military Guide
「シャハブ3」と言うのか、なかなかマッシブな弾道ミサイルで迫力がある。
発射機はトレラー形式のようで、北朝鮮のものよりも簡便である。
イランの国産新型戦闘機「Saeqeh」。 F-18と同等の性能だという。確かに尾翼は同じく2枚なのだが・・・
手前の機体はエアインテーク形状とエンジン排気ノズルが違っているので、露もしくは中国辺りから入手した適当なエンジンに換装したものだろう。
しかし、F-5Eの垂直尾翼を2枚にしただけに見えるのは気のせいだろうか。
さてその力の背景となる軍事力だが、イランにも陸・海・空軍があり、更に2008年に空軍より分離独立した防空軍の、4軍があるという。
更に独立した組織として、「革命防衛隊」(Army of the Guardians of the Islamic Revolution)というのがあり、これも陸海空軍及び、対外工作活動等にあたる特殊作戦軍(Quds Force )よりなるという。
民間防衛・民兵組織である「バシィージ」(Basij)というのも、この革命防衛隊が掌握しているのだという。
国防軍組織が、通常の「軍」と「革命防衛隊」という指揮命令系統が全く異なる非合理的な2重構造になっているのは、現体制は1979年の革命による暴力で権力を奪取した政体であり、自身が最も危惧するものは軍部によるクーデターや民衆蜂起など力による政体転覆であろうし、イスラム革命の志操堅固な精鋭親衛隊である革命防衛隊を設置することで、軍内部や民衆内の反イスラム革命行動に目を光らせているのであろう。
イラン国軍はイラン国土を防衛し、革命防衛隊はイスラム革命を守る、というところのようだ。
イランが装備する兵器体系は、革命以前の米英供与兵器も一部未だ現役だというが、第一線の近代兵器群は、中国、ロシア、それに北朝鮮より導入されている。
元来が陸軍国なのであろう、イラン国軍、革命防衛隊ともに陸上戦力に重点が置かれているようで、陸上兵力が突出しているが、陸戦の王者である機甲戦力(戦車)は国産戦車の開発もしていると言うが、主力はロシア製、中国製であり、北朝鮮の「天馬号」戦車を導入運用しているというのも興味深い。
海軍は英国流のようだが、駆逐艦やフリゲートといったイラン海軍の”大型艦”は、近代的な米欧海軍に対抗出来るようなものではなく、奇襲による開戦など余程な状況でもない限り、有事の際は早期に無力化されると思われるが、中国製対艦ミサイルを搭載した小型ミサイル艇群は、数も多く、これを完全に掃討するには相当な日時を要することも考えられ、ホルムズ海峡はじめペルシャ湾の艦船に相応な被害を生じせしめる可能性はあるだろう。
士気が高いと思われる革命防衛隊海軍の主力装備も、小型ミサイル艇である。
20隻あまりの潜水艦勢力は注目される。
現在17隻就役しているという国産小型潜水艦(Ghadir級)は、北朝鮮の技術協力によるものといわれ、魚雷発射菅を2門装備しており、艦船雷撃や機雷の敷設、特殊部隊の浸透作戦能力を持つものと思われる。
小型潜水艦は、平均水深50m、最深部でも90mという、25万平方キロの比較的狭く浅いペルシャ湾での活動に適したものだろう。
3隻のロシア製最新型ジーゼル潜水艦キロ級(Kilo級)は、大型であり作戦行動日数も長いので、ペルシャ湾内よりもアラビア海での活動を指向したものであろう。
隠密性の高い潜水艦勢力は今後も増強が続くと思われるが、20隻あまりの潜水艦を捕捉し、その戦力を完全に殲滅するには相当な日時を要することも考えられ、海上船舶交通には脅威となりうるだろう。
イランに陸上侵攻して、海岸線をはじめ数百キロの縦深地帯を制圧すれば話は別だが、潜水艦、小型ミサイル艇、機雷敷設、陸上発射型自走式対艦ミサイル・ランチャーを、航空作戦だけで完全に阻止・殲滅するにはかなりな日時を要するだろうから、イランが一定期間、ホルムズ海峡はじめ沿海部の海上輸送を阻止する能力は持つと見るべきだろう。
空軍の保有する作戦機には、革命以前の米製供与機と、それ以後に導入されたロシア、中国製の機材が混在しており、”多種雑多”な機種構成となっている。
ロシア製・中国製の機体も含め、大部分が旧式機であり、とても今日の米欧の航空戦力に対抗出来るものではない。
イラン空軍の航空作戦遂行能力には、自ずから限界があるだろう。
国産戦闘機の開発も行っているのだという。
革命前に供与された米製F-5を、ノンライセンスでほぼ丸ごとコピー生産したもの(HESA Azarakhsh)があり、それを改良した新型戦闘機(HESA Saeqeh)が近年飛行しているが、機体の基本設計が旧式で、性能改善には限界があるものであり、量産配備したところで米欧の現用戦闘機にとても対抗出来るものではない。
この新型戦闘機は量産配備が進んでいないようであるが、弾道ミサイルなどの非対称戦力の整備拡充のほうに傾注するというのは、寧ろ賢明な選択であろう。
米欧の航空戦力に拮抗出来るような近代的な空軍を建設することは当面不可能であるから、防空作戦は航空機には頼れず、対空ミサイルなど高射部隊を主体としたものに成らざるを得ず、近年空軍から対空ミサイル等を運用する高射部隊を独立させて、防空軍として一元的な運用としたのは、納得出来る改編であろう。
もっとも注目されるのは、弾道ミサイルであろう。
海峡封鎖の主力となる対艦ミサイルは中国系だが、周辺諸国への投射火力となる弾道ミサイルは、北朝鮮の技術支援を得ていると言われる。(注)
元々はソ連の設計になる射程数百キロのスカッド・ミサイルも北朝鮮から輸入しているようだが、北朝鮮がスカッド・ミサイルをベースに拡大改良した中射程弾道ミサイル、ノドン(射程~1,500Km)の技術がイランに渡っているとされ(注)、「シャハブ(Shahab)」の名称で生産配備され、これの射程延伸改良が継続されている。
シャハブは1型から3型までの存在が知られており、3型の射程はほぼ2,000kmに及ぶと言われるから、イスラエルはじめ中東全域に投射火力が及ぶことになる。
射程を延伸するに従い命中精度は普通は落ちるものと考えられ、弾道ミサイル自体が元々ピンポイントで目標を狙うものでなく、面制圧火力であることを考えると、イスラエルはじめ中東周辺諸国の軍事目標や重要目標をピンポイントで攻撃破壊することは難しく、シャハブ・弾道ミサイルというのは寧ろ都市部などへ火力投射する事で政治的な効果を狙う兵器なのであろう。
シャハブ等の弾道ミサイルの運用は革命防衛隊が全て担っているというのも、戦略兵器としての位置付けなのであろう。
3,000km+の射程を持つといわれる「ムスダン」も、2005年に18発が北朝鮮からイランに渡っていると言われるが、存在は今のところ確認出来ない。 この種の弾道ミサイルをベースにしたものが生産配備されれば、欧州の大半が射程に入ることとなるだろう。
更に射程を延伸して、米本土を攻撃出来る弾道ミサイルの開発を指向しているとの説も有るが、技術的経済的に可能であれば、そのような戦略兵器の保有に向かうことは不思議ではない。
戦略兵器である以上、シャハブなどの弾道ミサイルに、核弾頭の搭載を可能とすることを目指すのは、寧ろ自然であろう。
イランと相互に弾道ミサイルの技術協力関係にあるとされる北朝鮮も、弾道ミサイルを核兵器の投射手段と考えている事は興味深い。
北朝鮮が2009年にテポドン2号を打ち上げた際、イランの技術団がこれに立ち会っていたとの話がある。(注)
弾道ミサイルの開発について、イランと北朝鮮は相互に密接な技術交流を進めているものと推察されるが、日本がイランに支払っている年1兆円あまりの原油代金などの豊富な資金を投入し、開発したイランの核弾頭技術が、北朝鮮に渡り、日本を標的とするノドンなどの核弾頭として装着されるとしたら、笑えない話となるだろうか。
米国は予算面の制約から国防予算は今後大幅に圧縮され、軍備縮小の方向にあり、陸上兵力は8個旅団を廃止して常備49万の態勢になるという。
イランに本格的に陸上侵攻しようとすれば、50万+の陸上兵力は必要だろうし、現在の米欧諸国の情勢で、陸上侵攻可能な兵力と戦費を結集する事はかなり難しいところであろう。
空爆だけなら、国民が結集こそすれ、体制が崩壊することは無い。
米欧は陸上侵攻はして来れない。
一定期間ホルムズ海峡など海上オイル・ルートを封鎖するのは可能であるし、イラン自身にも影響はあるが、米欧など世界経済に大きな打撃を与え、上手くすれば国際社会の結束も綻び、イラン制裁など吹き飛んでしまう可能性も考えられよう。
かなりな事態に進展したところでイランは存続する。
相当強気な判断をイランがしているとしても、不思議ではないだろうか。
参考:
Wiki: Armed Forces of the Islamic Republic of Iran
Globalsecurity org: Iran Military Guide
「シャハブ3」と言うのか、なかなかマッシブな弾道ミサイルで迫力がある。
発射機はトレラー形式のようで、北朝鮮のものよりも簡便である。
イランの国産新型戦闘機「Saeqeh」。 F-18と同等の性能だという。確かに尾翼は同じく2枚なのだが・・・
手前の機体はエアインテーク形状とエンジン排気ノズルが違っているので、露もしくは中国辺りから入手した適当なエンジンに換装したものだろう。
しかし、F-5Eの垂直尾翼を2枚にしただけに見えるのは気のせいだろうか。