先日のパレードに登場した北朝鮮の大型弾道ミサイルだが、「KN-08」という名称は「ノドン」や「ムスダン」と言うのに比べると、いかにも味気ない乾いた呼び名である。

金日成の生誕100年記念だとかいうパレードで登場したのであるから、”イルソン100”とか、も少しかわいい”愛称”を付けてやればよいのにと思うのだが。

北朝鮮では弾道ミサイルの名称には「木星00」や「火星00」の呼称を用いているとされ、ネット上ではKN-08は”火星13”との記述もみられるようだが、真偽のほどは解らない。(

中国が供給した特殊車両WS51200が基と思われるKN-08のTEL移動式発射台車両だが、この車両のエンジンは米国Cummins Inc.のKTTA19-C700型700hpジーゼル・エンジンであり、変速器は独逸ZF Friedrichshafen社のWSK440+16S251型なのだという。
Cummins社のジーゼル・エンジンは世界中に輸出されているようで、中国でも何社かが取り扱っているようである。

北朝鮮が”敵”とする米国のエンジンを、弾道ミサイルの運用器材に使うとは一見奇妙に映るが、同エンジンのスペア・パーツなども北朝鮮は中国経由ばかりでなく、第三国からも入手が可能であろうから、合理的な選択なのだろう。

この大型弾道ミサイルについては、仔細に眺めると、多くの疑問点が有り、ロケット工学的にも粗漏な作りで、とても本物ではなく、おそらく記念式典用に”見世物”として作られたもので、北朝鮮がICBM級弾道ミサイルを保有するとの根拠は無い、とする解析が独逸の科学者により為されている。
A Dog And Pony Show North Korea’s New ICBM

同レポートでは、「このサイズの車載移動式弾道ミサイルであれば、固体燃料の筈である」としているのだが、所謂”西側”では固体燃料の有利性に着目して早くから固体燃料ミサイルが開発・導入され、「ミサイル燃料は固体燃料」というのが半ば常識化しているのだが、”東側”では液体燃料弾道ミサイルはごく普通にあり、燃料や運用等の工夫で固体燃料に比べて、戦術上の遜色は左程無いものと考えられている。

北朝鮮が現在保有する弾道ミサイルで、固体燃料のものは、シリアより保有する露製SS-21の技術資料を入手して作られたと言われる、KN-02戦術弾道ミサイル(射程100km程度という)のみである。
スカッド、ノドン、ムスダンといったこれまでの大型弾道ミサイルはいずれも液体燃料であり、”衛星打ち上げ”用銀河ロケットも、少なくとも1段目は何れも液体燃料ロケットである。

KN-08に固体燃料を導入しているとするのは、些か疑問が大きい。

北朝鮮は固体燃料大型ロケットの経験は無いが、液体燃料ロケットであれば経験も技術の蓄積も持っているのであるから、KN-08も液体燃料と見るほうが理に適っているであろう。

KN-08が液体燃料弾道ミサイルと考えれば、「固体燃料ミサイルなのに液体燃料の特徴を併せ持つ」などと言う奇妙な解析も生じないことであろう。

KN-08の尾部形状はムスダンのそれに非常によく似ている。

ムスダンはソ連のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)であるSSN-6がベースといわれ、ロケット・モーター部は燃料槽に入り込んだ複雑な構造になっているといわれるが、そのぶん全長が短く出来ているという。
所謂”ずんぐり”型で、ミサイルの長さに制約のある、潜水艦搭載弾道ミサイルならではの特徴を持つ。

車載として機動性を確保し、経空攻撃からの生存性を高めるには非常に都合の良い形状でもあるわけで、ムスダンがSLBMを流用したのにもひとつの合理性があることになる。
更に大型ミサイルであるKN-08にも同様の車載性要求があることを考えれば、実績・経験もあるムスダンのモーター部構造を踏襲するのは自然で合理的なことであろう。

スカッドやノドン系の弾道ミサイルには尾部に4枚の安定フィンがあり、発射台テーブルとフィン基部のアンカーとを大きな4本のボルトで繋ぎ、ミサイルを発射台にしっかりと固定出来るようになっている。(注ー参考写真

発射準備時にこのボルトは外すのだろうが、車載機動時にはミサイルがしっかりと発射台に固定されている必要があるわけだが、尾部安定フィンの無いムスダンやKN-08ではミサイル尾部が発射台テーブルにボルトで固定されているようには見えない。
ミサイル後部の発射台への固定は何か別の方法を採っているものと思われるが、写真からでは具体的なところは解らない。

パレードに登場させるのは基本的にダミー弾(擬製弾・はりぼて)であり、特に弾頭は例え装薬等が装填されていなくとも実用弾頭をパレードに登場させることは無いであろう。

ダミー・ミサイルであれば、細部については寧ろ同一の工作とするところだろうが、パレードに登場したKN-08はワイヤリング・カバー(Cable duct)や点検・燃料注入孔などに差異が認められるというのは興味深い。
弾体自体も板厚なしっかりとした造りである。
中国から購入したWS51200TEL車両は8台であるという話があるが()、少なくともKN-08は大量に生産・配備されている弾道ミサイルではないので、生産数が二桁の少ないほうの数字であれば、細部擬装に変更があるものが存在し、パレードに登場して来たとしても格別おかしな話ではない。

真実は北朝鮮のみが知る事ではあるが、KN-08弾道ミサイルは実在する根拠の無い”作り物”である、と結論づけてしまうほうが、寧ろ根拠に欠いている話であろう。

弾頭部のクローズ・アップ。外板の薄い”ペコペコ”感が窺える。
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弾道ミサイルの開発に当っては飛翔実証試験が必要なわけだが、1,000kmを超えるような長射程のものでは、日本列島にかかってしまう。
試験とはいえ、弾道ミサイル(或いは衛星打ち上げロケットと称して)が日本列島を何度も飛び越えるのでは、いくら平和ボケ国家の日本といえども騒ぐだろうし、寝ている平和ボケを起こしてしまう愚は、北としては避けねばならぬ事であろう。

KN-02の固体燃料ロケットは、衛星打ち上げ銀河ロケットの2段目として実証試験したとの話があるが、北朝鮮は弾道ミサイル開発に当り、燃料系統やロケット・モーターの実証試験は”衛星打ち上げ”と称するロケット発射試験や、或いは中東辺りの友好国との協同で行なう以外ないのであろう。

”衛星打ち上げ”施設を北朝鮮東岸の日本海に面した舞水端里とは別に、近年になって西岸の東倉里に新設したのも、長射程ミサイル(”衛星打ち上げ”ロケット)の唯一の飛翔コースである、南方向に南西諸島上空(島嶼間には若干の公海も存在する)の発射試験コースをとる為の苦肉の策ということであろう。

東倉里の新しい発射試験設備は、長射程弾道ミサイルの開発や、核弾頭、命中精度の向上等、弾道ミサイル技術一般の開発・向上に北朝鮮は今後も国家努力を傾注してゆく決意の表れとも見れようか。

KN-08ミサイルTEL用の、WS51200とみられる中国の特殊車両だが、米・韓両国はその事実関係を中国政府に対して照会しているようである。(

中国政府は輸出の事実を否定しているようだが、さすがに今後は同種車両の北朝鮮への輸出は難しくなることであろう。
事実照会すること自体が、中国の北朝鮮へのミサイル関連器材輸出への一定の抑止効果を齎すものと考えられようか。

KN-08を含め、北朝鮮の弾道ミサイル全般の技術開発進展は、弾道ミサイルの精度向上や攻撃手段の多様性等、直接日本への脅威の増大ともなるものだが、日本政府が中国のミサイル関連特殊車両輸出疑惑の件について中国政府に、その事実の照会をしたとのニュース報道は見ない。
政府にはその意思すらも無いように見えるのは、一体どう考えたらよいものだろうか。