日本にもADIZ(防空識別圏)というのがあり、航空自衛隊が自衛隊法第84条に基づき「領空侵犯に対する措置」というのを365日24時間態勢で行っている。(自衛隊法)
だいたい近代の戦争というのは、12月8日の真珠湾攻撃ではないが空からの奇襲攻撃で始まることが多い。
1941年(昭和16年)の真珠湾攻撃では、ハワイの米太平洋艦隊を奇襲壊滅させるのに、6隻の空母から360機の攻撃隊による、40本の航空魚雷、49発の800kg徹鋼爆弾(戦艦の40サンチ主砲砲弾を改造して作られたこの大型爆弾は、50機50発を用意したが当日1機に故障が発生している。 米戦艦アリゾナの甲板装甲を貫徹して前部主砲弾薬庫を爆発させ、同艦に1177名の戦死者を出させたのは、この爆弾であったという)、250kg爆弾と60kg爆弾それぞれ200発以上、さらに海中よりの5隻の特殊潜航艇の10本の魚雷、これらの集中投射を必要としたわけであるが、その後の兵器の発達は1機の航空機による1発の爆弾で国家機能を壊滅させることが可能となり、さらに近年には航空機を使ったテロにより社会を震撼させるような事態も生じている。
航空機は移動速度が速いので、領空(12海里領海の上空大気圏辺りまで)に敵性機が来てから対応したのでは、とてもでないが間に合わない。
ある程度の警戒バッファー域を設けて、そこに侵入してきたアン・ノウン(国籍不明機)に対しては常日頃から脅威の有無の識別確認を行なうわけである。
ADIZは国防上の観点からはなるべく広く取ったほうが良いのだろうが、侵入機を探知出来これに対応出来る能力がなければ意味が無いので、レーダ覆域や、昼夜全天候で目標の識別確認に出動可能な作戦機の状況、隣国との地理的関係等により自ずと範囲は決まるのであろう。
日本のADIZは航空自衛隊発足時にそれまで日本の防空を担っていた米第5空軍が設定していたものを引き継いでいる。
日本各地のレーダー・サイトも米軍より引継ぎ、要撃要領も米軍方式だが、地上のレーダー・サイトと連携したGCI(Ground Controlled Intercept-地上要撃管制)という、地上の要撃指揮官がレーダで彼我の態勢を見ながら要撃機を優位な位置に占位するよう誘導し作戦させるという、旧軍ではやりたくても出来なかったシステマチックな防空体制は、新鮮であったことだろうか。
当時米軍はコンベアF-102Aを日本に駐留させて日本の防空にあたっていた時代で、この機体は米本土防空用に開発された超音速要撃機でありGCIとの自動連携機能をはじめ、高度なシステムを持ちハード・ソフト両面で抜きん出た機体であった。(MG-10 System)
「あれはいい飛行機でした」と北警団司令だった井上旦閣下が言っていたほどである。
航空自衛隊は、さすがにF-102Aまでは供与してもらえず、当初は米軍F-102Aによる全天候防空の支援を受けながら、供与されたF-86F昼間戦闘機で防空任務を発足、のちにレーダを装備したF-86D型の供与を受けて初めて全天候戦闘能力を持つに至っている。
F-102Aを知った地上の要撃指揮官にすれば、主力がF-86Fでは多分に不満なところはあったろうが、”F-86F昼間戦闘機”はファイター乗りにとっては良い機体であったようだ。
「あれは遊ぶにはもってこいの飛行機だ」と川戸さんが言っていたのを思い出す。
視界が良く、手足の如く自在に動き頑丈で無理が利く。なにかしら零戦と似たところがあったろうか。
対領空侵犯措置では、スクランブル発進して目標を捕捉し、目標航空機の昼夜間での識別の要領や、接近距離の限度なども詳細に定められている。
国際線を飛んでくるエアライナー機はICAOで定められているFIR(Flight Information Regionー飛行情報区)に入る場合はFIR管轄先にフライト・プランを提出しており、日本の場合はFUKUOKA FIRになるが、警戒航空団はこの情報提供を受けており、定期便旅客機などは照合判別されてアン・ノウンではなくなるので、スクランブルの対象とはならない。
たまに一時帰国する場合はアンカレッジFIRからアリューシャン列島沿いに下ってFUKUOKA FIRに入るのが普通で、稀にジェット・ストリームの関係だろうか?ロシア領のFIRのほうに入って南下してゆくこともある。
北海道沖にかかって若干の気流の乱れを感じる頃、そろそろ日本のADIZに入るなと思い、便所の近くのエコノミー席の小さな窓から酒の入ったプラスチックのグラス片手に機外を見張るのだが、遠くにエアライナーを発見することはあっても、千歳のF-15は残念ながら上がっては来ないわけである。
規定ではVFRでADIZに侵入する航空機は報告するように要請はされているが、今どき小型のビジネス機でもIFR航法機器は完備しているので、VFRで日本に飛んでくる機体は実際には殆どないであろう。
スクランブルの対象となるアン・ノウンはほぼ周辺国の軍用機になる。
レーダやスクランブルの状況等自衛隊の能力の偵察や、訓練、或いは何らかの示威行動を目的に彼らはやって来る。
日本の対領空侵犯措置では相手機が領空侵犯する場合に、「これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」(自衛隊法84条)とはなっているが、武器の使用に付いては、「正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許される」と解されている。(武器使用規定)
もちろん領空侵犯が無ければ自由航行の原則が適用される公海上の国際空域であるから、”見ている”だけである。
今回中国が東支那海上に設定した中国ADIZは、そこを飛行する場合のフライト・プランの提出ばかりでなく、管轄する人民解放軍への協力やその指示を拒む場合には防御的措置を取るとして、中国人民解放軍の指示に従うことが強要されている。
ADIZを「準領空」とする中国式の新しいルールの設定である。
国家の大小強弱に関らず、公海や公海上の国際空域は等しく自由に使用出来るとする自由使用の原則というのは、欧米はじめ自由と民主主義を標榜する諸国の基本原則であり、相互の発展と繁栄の基盤であるが、そもそも共産中国には、”人間の自然権としての自由権”などという発想自体が無いのかも知れぬ。
自由と言うのは、人民の唯一の正当な代表である中国共産党政府がその必要の度合いを判断して、人民に与えてやるものなのであろう。
東支那海上空の飛行も、中国の意向に反しない限りにおいて飛行の自由を与えてやる、ということなのであろう。
今回の中国のADIZ設定に対しては、日米はじめ世界の反発が予想外に強いとは感じていることだろうが、いったん設定したものを撤回するとも思えず、”解釈””説明”などで何とかここは乗り切ろうとすることだろうか。
相手が強ければ無理をせずに退き、弱いと見れば攻め立てる、というのは支那軍戦術の原理だろうから、将来日本を攻め立てる時の布石としてもADIZは有用であろう。
経済面よりすれば中国は日本にとって最大の貿易相手国だろうし、中国は13億、アメリカは人口3億である。
あんな無人島のために13億のマーケットをむざむざ捨てていいのか!? 財布を考えれば究極には米中どちらを取るかは自ずと明らかではないか、などと言う声も経済人からは聞こえて来そうであるし、ナントカ宇一朗とか言う伊藤忠出の元中国大使ではないが、中国のメッセンジャー・ボーイを働く者は幾らでも日本にはいるだろうから、将来状況を変化させて中国が対日攻勢に出る日も来ることだろうか。
中国のやっていることは、何のことはない力による領土侵略であり、21世紀の共産帝国主義であるが、中国は対日武力行使に向けてまっしぐらに進んで来ているのが凄い。
日本の防空識別圏
飛行情報区(FIR)(国土交通省航空行政)
(画像Wikiより)
中国は設定したADIZを変える積りは無いのだろうから、ADIZの撤回ばかりを迫っても対立が深まるだけとも言えるか。
国際関係は「互恵平等」が原則であるから、いっそここは、日本も中国方式に倣って、ADIZを上海など大陸周辺まで拡大し、当該空域を飛行する航空機にはフライト・プランの提出を義務付け、協力や管轄する航空自衛隊からの指示を拒むような航空機に対しては、防御的措置をとる、としたほうが良いかも知れぬだろうか。
だいたい近代の戦争というのは、12月8日の真珠湾攻撃ではないが空からの奇襲攻撃で始まることが多い。
1941年(昭和16年)の真珠湾攻撃では、ハワイの米太平洋艦隊を奇襲壊滅させるのに、6隻の空母から360機の攻撃隊による、40本の航空魚雷、49発の800kg徹鋼爆弾(戦艦の40サンチ主砲砲弾を改造して作られたこの大型爆弾は、50機50発を用意したが当日1機に故障が発生している。 米戦艦アリゾナの甲板装甲を貫徹して前部主砲弾薬庫を爆発させ、同艦に1177名の戦死者を出させたのは、この爆弾であったという)、250kg爆弾と60kg爆弾それぞれ200発以上、さらに海中よりの5隻の特殊潜航艇の10本の魚雷、これらの集中投射を必要としたわけであるが、その後の兵器の発達は1機の航空機による1発の爆弾で国家機能を壊滅させることが可能となり、さらに近年には航空機を使ったテロにより社会を震撼させるような事態も生じている。
航空機は移動速度が速いので、領空(12海里領海の上空大気圏辺りまで)に敵性機が来てから対応したのでは、とてもでないが間に合わない。
ある程度の警戒バッファー域を設けて、そこに侵入してきたアン・ノウン(国籍不明機)に対しては常日頃から脅威の有無の識別確認を行なうわけである。
ADIZは国防上の観点からはなるべく広く取ったほうが良いのだろうが、侵入機を探知出来これに対応出来る能力がなければ意味が無いので、レーダ覆域や、昼夜全天候で目標の識別確認に出動可能な作戦機の状況、隣国との地理的関係等により自ずと範囲は決まるのであろう。
日本のADIZは航空自衛隊発足時にそれまで日本の防空を担っていた米第5空軍が設定していたものを引き継いでいる。
日本各地のレーダー・サイトも米軍より引継ぎ、要撃要領も米軍方式だが、地上のレーダー・サイトと連携したGCI(Ground Controlled Intercept-地上要撃管制)という、地上の要撃指揮官がレーダで彼我の態勢を見ながら要撃機を優位な位置に占位するよう誘導し作戦させるという、旧軍ではやりたくても出来なかったシステマチックな防空体制は、新鮮であったことだろうか。
当時米軍はコンベアF-102Aを日本に駐留させて日本の防空にあたっていた時代で、この機体は米本土防空用に開発された超音速要撃機でありGCIとの自動連携機能をはじめ、高度なシステムを持ちハード・ソフト両面で抜きん出た機体であった。(MG-10 System)
「あれはいい飛行機でした」と北警団司令だった井上旦閣下が言っていたほどである。
航空自衛隊は、さすがにF-102Aまでは供与してもらえず、当初は米軍F-102Aによる全天候防空の支援を受けながら、供与されたF-86F昼間戦闘機で防空任務を発足、のちにレーダを装備したF-86D型の供与を受けて初めて全天候戦闘能力を持つに至っている。
F-102Aを知った地上の要撃指揮官にすれば、主力がF-86Fでは多分に不満なところはあったろうが、”F-86F昼間戦闘機”はファイター乗りにとっては良い機体であったようだ。
「あれは遊ぶにはもってこいの飛行機だ」と川戸さんが言っていたのを思い出す。
視界が良く、手足の如く自在に動き頑丈で無理が利く。なにかしら零戦と似たところがあったろうか。
対領空侵犯措置では、スクランブル発進して目標を捕捉し、目標航空機の昼夜間での識別の要領や、接近距離の限度なども詳細に定められている。
国際線を飛んでくるエアライナー機はICAOで定められているFIR(Flight Information Regionー飛行情報区)に入る場合はFIR管轄先にフライト・プランを提出しており、日本の場合はFUKUOKA FIRになるが、警戒航空団はこの情報提供を受けており、定期便旅客機などは照合判別されてアン・ノウンではなくなるので、スクランブルの対象とはならない。
たまに一時帰国する場合はアンカレッジFIRからアリューシャン列島沿いに下ってFUKUOKA FIRに入るのが普通で、稀にジェット・ストリームの関係だろうか?ロシア領のFIRのほうに入って南下してゆくこともある。
北海道沖にかかって若干の気流の乱れを感じる頃、そろそろ日本のADIZに入るなと思い、便所の近くのエコノミー席の小さな窓から酒の入ったプラスチックのグラス片手に機外を見張るのだが、遠くにエアライナーを発見することはあっても、千歳のF-15は残念ながら上がっては来ないわけである。
規定ではVFRでADIZに侵入する航空機は報告するように要請はされているが、今どき小型のビジネス機でもIFR航法機器は完備しているので、VFRで日本に飛んでくる機体は実際には殆どないであろう。
スクランブルの対象となるアン・ノウンはほぼ周辺国の軍用機になる。
レーダやスクランブルの状況等自衛隊の能力の偵察や、訓練、或いは何らかの示威行動を目的に彼らはやって来る。
日本の対領空侵犯措置では相手機が領空侵犯する場合に、「これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」(自衛隊法84条)とはなっているが、武器の使用に付いては、「正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許される」と解されている。(武器使用規定)
もちろん領空侵犯が無ければ自由航行の原則が適用される公海上の国際空域であるから、”見ている”だけである。
今回中国が東支那海上に設定した中国ADIZは、そこを飛行する場合のフライト・プランの提出ばかりでなく、管轄する人民解放軍への協力やその指示を拒む場合には防御的措置を取るとして、中国人民解放軍の指示に従うことが強要されている。
ADIZを「準領空」とする中国式の新しいルールの設定である。
国家の大小強弱に関らず、公海や公海上の国際空域は等しく自由に使用出来るとする自由使用の原則というのは、欧米はじめ自由と民主主義を標榜する諸国の基本原則であり、相互の発展と繁栄の基盤であるが、そもそも共産中国には、”人間の自然権としての自由権”などという発想自体が無いのかも知れぬ。
自由と言うのは、人民の唯一の正当な代表である中国共産党政府がその必要の度合いを判断して、人民に与えてやるものなのであろう。
東支那海上空の飛行も、中国の意向に反しない限りにおいて飛行の自由を与えてやる、ということなのであろう。
今回の中国のADIZ設定に対しては、日米はじめ世界の反発が予想外に強いとは感じていることだろうが、いったん設定したものを撤回するとも思えず、”解釈””説明”などで何とかここは乗り切ろうとすることだろうか。
相手が強ければ無理をせずに退き、弱いと見れば攻め立てる、というのは支那軍戦術の原理だろうから、将来日本を攻め立てる時の布石としてもADIZは有用であろう。
経済面よりすれば中国は日本にとって最大の貿易相手国だろうし、中国は13億、アメリカは人口3億である。
あんな無人島のために13億のマーケットをむざむざ捨てていいのか!? 財布を考えれば究極には米中どちらを取るかは自ずと明らかではないか、などと言う声も経済人からは聞こえて来そうであるし、ナントカ宇一朗とか言う伊藤忠出の元中国大使ではないが、中国のメッセンジャー・ボーイを働く者は幾らでも日本にはいるだろうから、将来状況を変化させて中国が対日攻勢に出る日も来ることだろうか。
中国のやっていることは、何のことはない力による領土侵略であり、21世紀の共産帝国主義であるが、中国は対日武力行使に向けてまっしぐらに進んで来ているのが凄い。
日本の防空識別圏
飛行情報区(FIR)(国土交通省航空行政)
(画像Wikiより)
中国は設定したADIZを変える積りは無いのだろうから、ADIZの撤回ばかりを迫っても対立が深まるだけとも言えるか。
国際関係は「互恵平等」が原則であるから、いっそここは、日本も中国方式に倣って、ADIZを上海など大陸周辺まで拡大し、当該空域を飛行する航空機にはフライト・プランの提出を義務付け、協力や管轄する航空自衛隊からの指示を拒むような航空機に対しては、防御的措置をとる、としたほうが良いかも知れぬだろうか。