Bandoalphaのらく書き帳

故郷離れてはるばる千里、ひとつ山越しゃ他國の星がぁ・・・昭和の終末高齢者! 思い付いた時に思いついた事などのテキト~なメモ書きらく書き帳ですぅ。 桧野俊弘 ご意見メールは:Bandoalpha@msn.com

2014年08月

All Not Quiet on the Eastern Front

「All Quiet on the Western Front - 西部戦線異常なし」は、第一次大戦を舞台とした小説・映画であるが、ウクライナ東部戦線はなかなか異常なしとはいかないようだ。

ウクライナ東部では最近ウクライナ軍が攻勢を強めていて、親露分離派勢力はその支配地域を縮小せられていたというが、ここに来て東南部の海岸地域で、火力機甲戦力に優れた有力な部隊が攻勢をかけて来、「Novoazovsk」という町が水曜夜半には占領されたという。

この辺りにはそのような強力な親露派勢力は存在しておらず、国境を越えて侵攻して来た、戦車や装甲車、自走砲を伴うロシア軍部隊による攻撃だという。

東部戦線でもロシア軍がウクライナ国内に侵攻布陣し、ウクライナ軍への砲撃等直接の攻撃を行っていると言う。

これまでもウクライナ東部の親露分離派勢力への武器供与をはじめ、ロシア領内からの攻撃等、”軍事顧問”としてのロシアの隠然たる関与は知れていたことであったが、ここへ来て白昼公然と部隊規模で参戦してきているようである。

ウクライナ東部では親露派勢力が、”ドネツク人民共和国”の設立を宣言する等していたが、”首都”のドネツクがウクライナ軍に包囲されるなど、芳しからぬ状況から、”せっかく蒔いた種の芽を、摘み取られてたまるか!”というプーチンの決意の顕われの行動なのであろう。

電撃総力戦でウクライナ全土を掌握するようなことは今は無理としても、ウクライナ東部を掌握し、クリミア半島への陸路も確保しておきたい、というところだろうか。

隣国の主権を蹂躙するあからさまな武力侵攻であり、ロシアの意図を断念させるには、経済制裁だけでは無理で、ウクライナへの強力な武器供与支援の開始などが考えられるが、オバマには出来まい。

 国防予算削減で、空軍のA-10攻撃機全機を用途廃止にするのだとの話があるが、要員の教育、弾薬類、今後10年間の運用経費も含めて、A-10を330機、まるごとウクライナに供与でもすればよいものを。

気の毒な話だが、ウクライナの将来はあまり明るくはないような・・・

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ウクライナ政府による戦況図。(Ukraine National Security & Defense

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ウクライナ領内をゆくロシア軍砲兵部隊自走砲車列。(NATO
ロシアはウクライナ領内の自軍の存在を完全否定しているので、正確には、「ウクライナ領内の国籍不明のロシア軍部隊」である。

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ウクライナ領内でのロシア軍砲兵部隊の布陣。(NATO)

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”ドネツク人民共和国”の初代首相と2代目。(注:テキヤのおやぢではない)
どちらの人物も経歴は判然としない。ちなみに初代はロシア人だという。

欧米とロシアは冷戦の時代に進みそうである。

日本にとってロシアと、そして中国は隣の大国。 ”敵の敵は味方”の論理で、ロシアと中国は今後友好関係を深めることだろうが、”弱肉強食、力が正義”のロシアのやり方が成功し世界に通用してゆけば、中国の東支那海などでの対日政策をも、勢い付かせることであろうか。

Buk地対空ミサイル・システム(SA-11)

ウクライナ上空でのマレーシア航空MH17便撃墜に使用されたとみられる、「Buk地対空ミサイル」であるが、70年代に開発が始められ(1972年開発着手)、80年より部隊配備が開始された「野戦機動型地対空ミサイル・システム」であり、その後も改良型が順次登場し、現在も改良型の開発が継続されているものだという。

世界十数カ国で使用されており、艦艇搭載型(SAN-7)もあるというから、所謂”使い勝手の良い”なかなか優れた対空ミサイル・システムなのであろう。

開発に当っては、ソ連の開発主任(Ardalion Rastov)らはエジプトに出向き、当時行われていたイスラエル空軍との”地対空ミサイルによる防空戦闘の実相”を見聞している。

当時使用されていた野戦機動型地対空ミサイルは、「2k12”Kub”(NATOコードネームSA-6)」であるが、イスラエル空軍に対しそれなりに損害を強いてはいたものの、将来のシビアな防空戦闘に於いてはその欠点も露見されている。

1.Kub高射隊は、目標捜索レーターとミサイル射撃管制レーダーを装備した「レーダー・ミサイル射撃指揮管制車」を中核に、「ミサイル発射台車両」4台ほどより構成されるが、この”一元管理”方式では、レーダー・ミサイル射撃指揮管制車がやられてしまうと、ミサイル発射台車両がたとえ無傷で残っていても対空戦闘能力は完全に喪失してしまう。

2.相手がデコイ(欺瞞体)を多用して攻撃して来た場合、一時に一目標に限られる対処能力では、デコイに処している間に敵機の侵入を許してしまう。

Buk開発に当っては、Kubの後継システムとして全般的な性能向上は勿論として、上記2点が重視され、結果、「目標捜索レーダー」と「高射隊全般指揮管制」、そして「ミサイル射撃管制レーダー」を其々別個の車両とし、ミサイル射撃管制レーダーはミサイル発射台車両に塔載(transporter erector launcher and radar -TELAR)し、発射台車両単独でもミサイル射撃を可能とし、且つ高射隊配備TELER台数(最大管制数6台)分の「多目標同時対処能力」を付与している。(当時の技術では、現在のように一台のミサイル射撃管制レーダーで同時に多目標の迎撃処理ということは、未だ出来ていない。)

初期型の「Buk-1(9K37-1)」に続いて、1983年には改良型の「Buk-M1(9K37M1)」が導入開始され、更に1988年以降には「BukM1-2(9K37M1-2)」や、フェーズドアレイ・レーダーを導入し本格的な同時多目標処理能力(24目標同時捕捉4目標同時迎撃)を備えた「Buk-M2(9K317)」といった改良型が開発されたが、ソ連邦の崩壊によりこれらの生産配備は一時中断し、2000年代に部分的に近代化のうえ生産配備がなされている。
 これら新型Bukに対しては、NATOコードネームもBuk-M1までの「SA-11」とは区別して、「SA-17”Grizzly”」と新しく付されている。

ウクライナ軍が装備しているのは「Buk-M1」であり、ロシア国防省によるマレーシア航空機撃墜事件説明でも(ウクライナ軍の)「Buk-M1」としており、米国防省の情報解析の結果も使用されたミサイルは「SA-11」と発表しているので、今回のマレーシア航空777機撃墜事件で使用された地対空ミサイルは、「Buk-M1」であった可能性が高い。
 
★以下「Buk-M1(露型式名9K37M1。NATOコードネームSA-11”Gadfly”)」について述べる。

Buk-M1地対空ミサイル・システムの構成

@:高射隊の全般射撃指揮管制「コマンド・ポスト」車両-「9C470M1」
@:目標捜索レーダー(9S18M1。NATOコードネームSnow Drift)を塔載した車両-「9C18M1」
@:ミサイル射撃管制レーダー(9S35M1。NATOコードネームFire Dome)を装備し、ミサイル4発を塔載するミサイル発射台車両-「9A310M1」(TELER)
@:ミサイル8発を積載出来、うち4発のミサイルは発射も可能なミサイル運搬車両-「9A39M1」(TEL/Loader)

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左より、コマンド・ポスト車両、”Snow Drift”目標捜索レーダー、TELER、TEL。右隅はミサイル収納コンテナーを積載した輸送トラック。

・なお使用されるミサイル本体の型式名は「9M38M1」、最大射程35km最大射高22,000mという。
・コマンド・ポスト車1台で6輌までのTELERの管制運用が可能である。
・ミサイル運搬車両TELはミサイル発射機能は有するが、ミサイルの射撃管制レーダーは持たないので、ミサイルの発射誘導管制はTELERに依ることとなる。次発ミサイルの運搬・装填が主目的であるTELはTELERに隷属するかたちになる。

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Buk-M1高射隊編制の一例。

以上の車両は全て装軌式車両であり、戦車、装軌式装甲車と同等の不整地走破能力を有し、NBC(核、生物、化学兵器)戦防御能力を備え、ミサイル射撃態勢の布陣、撤収はいずれも5分以内と迅速であり、戦車師団など機甲部隊に随伴して機動展開し、地対空ミサイルによる”防空の傘”を提供することを可能としている。

目標捜索レーダー(9S18M1 ”Snow Drift”)は、360度を4.5秒と6秒のモードで全周サーチし、6目標の同時捕捉が可能という。
同レーダーの最大探知距離については160km、137km、85km、高度100mの目標で35km等々種々の数値が見られるが、レーダーリフレクションは目標によってかなり違う(例えば同じ大型爆撃機でもB-52とB-1Bのそれは100対0.75といわれ、B-2やF-22、F-35といったステルス機ともなれば、目標が視認されるのにスコープ上には未だ映らないということすら生じる)ので、条件が不明な数値は一応の目安程度のものであろう。

Buk-M1は、IFF(Identification friend or foe-敵味方識別応答機)の他に、「non-cooperative target recognition(NCTR)」と称されるユニークな彼我識別機能を持つ。
これは機種によるレーダーリフレクションの微妙な相違をデータ照合することによって、戦闘用機種や民間大型機とを識別するものという。

錯綜する戦場上空では、探知目標の彼我識別というのはなかなか難しいところがある。
被弾しIFF応答が出来ない友軍機も出るだろうし、敵性機であっても投降・亡命のケースも有り得、状況によっては第三国の軍用機や民間機が探知されることもあるであろう。
「NCTR」は、複数の彼我識別装置を併用することによって、中近東地域のような錯綜した空域での敵味方の識別を確実にしようとするものであろうが、大型民間機を其の侭軍用にしているような場合もあるので、限界もあるであろう。

コマンド・ポスト車は、隷下高射隊各車両機器および上級司令部とデータリンクを持ち、戦域全体状況を把握し、目標の探知、識別、捕捉、迎撃優先度の設定、迎撃TELERの選定、目標迎撃の成否などを把握し、防空戦闘の全般指揮を司るものであろう。

迎撃ミサイルの発射はTELERで行われる。
コマンド・ポストより指定された目標を、塔載するミサイル射撃管制レーダー「9S35M1(Fire Dome)」で捕捉し、CW(連続波)を目標に照射して、発射された迎撃ミサイル「9M38M1」はCW反射波に乗って目標に接近、ミサイルの頭部レーダーシーカーが目標を捕らえた後はミサイル自身が目標にホーミングしてこれを撃破する。

TELERには”Karat”と呼ばれるEO System(エレクトロ光学システム)「9Sh38-3」が装備されている。
サーマル・イメージ、レーザー波を使用した光学システムといい、夜間や気象を屈服して目標を画像視認することが出来るようである。
ミサイル射撃管制レーダー「9S35M1」を使用せずに、EO Systemにより指令誘導で迎撃ミサイルをそのレーダーシーカーの目標捕捉範囲まで誘導し、迎撃することも可能であるという。

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EO System「9Sh38-3」。光学イメージ、サーマル・イメージ、レーザー測距機能を持つという。

TELER単独でミサイルを発射管制し目標を迎撃することも可能なわけであるが、その場合にはレーダーサーチ範囲の余裕や彼我識別の能力はかなり制限されたものとなる。

英国筋の報道であったか、今回のマレーシア航空機撃墜では、”ロシアより持ち込んだTELERを単独で使用したのだ”との話があったが、反政府勢力が確保しているのはウクライナ東部の狭い地域であり、規模の大きいシステマチックな高射隊編制より、TELER車両単独で運用している可能性は高いであろう。

マレーシア航空の777が撃墜されたウクライナ東部の飛行制限高度であるが、ウクライナの航空当局は7月14日に軍のAn-26が東部で撃墜されて以降、高度32,000ft以下を飛行禁止としていた。(当該An-26は高度6,500m-21,000ftーを飛行中であったという。それ以前の飛行制限高度は26,000ft以下であった。ちなみに作戦行動する軍用機は航空当局の規制適用除外である。)
 ロシアの航空当局も、7月17日零時(MH17便撃墜事件発生の日である)より、ウクライナ東部と接するロシア領空域での高度32,000ft以下の飛行制限NOTAMを通達している。

ロシアの飛行制限高度もウクライナのそれに単純に合わせたとも考えられるが、NOTAMは管轄する空域の航空当局がその責任に於いて通達するものであるから、ロシアの「32,000ft以下」という高度もなにか判断とする独自の基準・根拠があったものと考えられようか。
 紛争状態にある両国の関係も考えれば、ウクライナもロシアも其々の判断根拠に基づいて飛行制限高度を設定し、それがどちらも32,000ftということであったろうか。

ロシアとウクライナは、Buk-M1地対空ミサイル・システムの開発生産国、配備運用国である。

TELER単体でミサイル発射、目標迎撃する場合には、目標の彼我識別にはEO Systemでの目視確認が大きな役割を担うと思われるが、EO Systemでは高度1万mまでは目視確認は難しいのではあるまいか。
Buk-M1でのTELER単体で運用する場合のマニュアルのようなものを根拠として、32,000ft以下という高度が出てきたとも考えられようか。

”Buk-M1地対空ミサイルの運用講習”を受けても、右から左の”ウクライナ反政府軍の酔っ払いおやぢ”なのか?、”ウクライナ友情支援”の越境ロシア兵なのか?は知らないが、粗雑粗暴な儘に、マレーシア航空機に対しミサイルを撃ったということなのだろうか・・・

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輸送用コンテナーより取り出し機能検査中の9M38M1ミサイル。”機能検査異常無し”となれば、TELERあるいはTELに塔載して発射準備完了となる。 ミサイルは10年間整備不要であるという。
白いレドームにレーダー・シーカー「9E50M1」、その後ろの検査機器を当てている部分が近接信管「9E241M1」収納部で、後ろに70kgという弾頭が収納される。近接信管は目標の17m以内で作動し、爆発弾頭からは無数の硬金属片を飛散させ、目標を覆い確実にこれを撃砕する。

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弾頭の飛散パターン

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ネットで出回っていたBukミサイルの不発弾頭とみられるもの。「9H314」との表記が見える。内部に硬い金属の小片が詰まっている。


<参考>
AIR POWER AUSTRALIA

Buk Missile System Lethal, But Undiscriminating-Aviation Week

Buk missile system-Wikipedia

MADE in the USSR: BUK SAM! (English subtitles)」-Youtube :露語英訳の問題なのか?解説に疑問点はあるものの、当該ミサイル・システムの概要が理解出来る。

R-60 AAM

7月21日のロシア国防省のマレーシア航空機撃墜事件説明で、ロシアが”犯行容疑者”として名指していたのは、ウクライナ軍のBuk-M1地対空ミサイルと、同じくSu-25攻撃機であるが、犯行容疑のウクライナ空軍のSu-25がMH17便撃墜に使った”凶器”として、「R-60 AAM(空対空ミサイル)」の名が挙げられていた。

R-60 AAMが民間機に対して使用された事例がある。

1988年8月に、ボツワナの政府専用機BAe-125-800Aが、飛行中に、アンゴラ空軍のMig-23からR-60AAM2発による攻撃を受けたと言う。

一発目がNo2エンジンに命中して同エンジンが脱落し、2発めのR-60は落下するNo2エンジンに命中したという。

被弾した同機は何とか墜落を免れて、不時着に成功し、搭乗していたボツワナの大統領以下乗員は全員生存している。

Aviation Safety Network -Criminal Occurrence description

BAe125-800Aはビジネスジェットであるが、双発のエンジンの1基にR-60が命中したが、何とか不時着出来たのは、R-60AAMの弾頭が3Kg~3.5kg程度と小型であることによるものであろう。

R-60はIR(赤外線)ホーミング・ミサイルであるが、なかなか精確に最も大きなIR源であるエンジンに、命中するようだ。

777に対してR-60で攻撃した場合、同AAMは777のエンジン部に命中する確立が高い。

エンジンは破壊され、消火に失敗すれば火災が生じようが、直に主翼の構造部などが破壊されてしまう事態にはなりそうにない。

少なくとも非常事態を通報する時間的余裕はあるであろうし、両エンジンがやられたとしても、不時着に成功する可能性も十分に考えられよう。

今回のMH17便は非常事態通報の間もなく、瞬時に破壊されているので、R-60AAMが使用された場合とは状況が大分異なるといえよう。

R60M (480x640)
スロバキア空軍のR-60AAM。小型の短射程AAMである。

Su-25は30ミリ機関砲を装備しているが、空対空射撃で777を撃墜するのは、R-60AAM使用よりも遥かに難しくなる。
それも高高度性能の劣る機体で、一航過の一撃で確実に777のコックピット部などの破壊を計画し、それが実行出来るとするなどは、現実的な話ではない。

ウクライナ空軍のSu-25は、7月16日に1機、MH17便撃墜事件後の23日にも2機が撃墜されているという。 ウクライナ東部の親露派分離勢力への対地攻撃に、Su-25は相当に投入されているようであるから、MH17便が撃墜された17日にもSu-25が東部空域で作戦中であったことは考えられるが、同機がMH17便を撃墜したとする根拠は否定される。
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