犬の種類のことは知らないが、大きな灰色の犬で毛並みも良さそうだし、よく飼い馴らされているようで噛み付いたり危害を与える様子も無く、逃げようともせずにこちらを見ている。
人間の種類のことは知らないが、毛並みも薄いし見るからに頭も悪そうだが、よく飼い馴らされているようで噛み付いてくる様子は無さそうだな、と犬もこちらを観察している。
「家に帰れ!」と言っても、お前が帰れとでも思っているのか、行きゃしない。
小太りのおばさんが息を切らしてやってきた。
迷い犬の次は迷いおばさんか、今日はいろんなのが来るなあと思ったが、犬の飼い主なのだと言う。
散歩の途中で犬が逃げ出したと言う。
そりゃ犬だって、おばさんの歩調に合わせるのでなく、偶には自由奔放に散歩したいだろ。
犬の気持ちもよく解る。
捕まえようとすると犬は逃げる。
こちらが退けば犬は寄ってくる。遊んでいるのである。
犬の気持ちも解るとばかり言ってもいられないので、「あなたは向こうに回って、オレはこっちから、」と日米共同作戦。
どうやら迷い犬君も自由散歩を満喫し飼い主の許に戻ったようで、目出度し目出度しであった。
今日の仕事も終わったな。と思って休んでいると暫らくしてチャイムが鳴った。
さっきのおばさんが、「お礼に」と言ってわざわざケーキを持参して来た。
「フレンチ・ベーカリー」と言う近くのケーキ屋のだが、この辺ではここのが一番おいしい。
尤も酒屋ならば兎も角、ケーキ屋に用事は無いので年に数回も行かないのだが、ケーキ屋のおやぢは確かフランス系アメリカ人で、英語にフランス訛りがあった。
俺も東北系日本人なので、少し英語が訛る。
店の奥になかなか立派な仕事場を構え、世の明けぬうちからパンをコネっているという。
これも好きでなければ続かない仕事なのだろう。
おばさんはWSUのシャツを着ていたのでワズーの卒業生のようだが、さすが美味しいケーキは知っているようで、伊達に小太りではない。
しかし考えてみると、犬に遊んでもらっただけで何をしたわけでもなく、たかが菓子といってもそんなに安くもないものをわざわざ。却って恐縮する。
ここのは甘すぎないとは言っても、ケーキはケーキである。
辛党としては小さいのを二切れも食べればもう十分だが。
どうせなら、も少し辛いAL○○%とかの液体のヤツをと思うんだが。ま、次の機会か。
どんどん来たれ、迷い犬!
レーガン大統領の、犬のお話を思い出した。