2月はさすがに風がまだ冷たかったが、3月には一雨毎に暖かくなり、4月に入ると桜が満開で春風に桜吹雪が舞い、今は桜葉に射す陽が暖かい。

世界は相変わらずキナ臭いニュースが多いようだが、先日4月6日にはシリアのアサド政権軍航空基地に米海軍がトマホーク・ミサイル攻撃を行ったという。

4月4日に、シリア北西部の反アサド政権勢力の支配する町(Khan Shaykhun)に対して化学弾(サリンという)攻撃が行なわれ、子供も含め死傷者数百名を生じたことに対する措置という。(Khan Shaykhun chemical attack-Wikipedia

シリアやイラク領域内のISIS(又はISIL。”イスラム国”)に対しては現在掃討作戦が行われており、連日の如く地上作戦支援の空爆が行われているが、米国によるアサド政権側に対する攻撃は初めての事という。(CENTCOM

今回の化学兵器行使は、アサド政権軍の航空基地(Shayrat AB)からのスホイSu-22M戦闘攻撃機により行われたものだという。

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トマホーク攻撃を受ける前のShayrat航空基地の衛星写真。
V字型の2本の滑走路の周囲には40基を超える航空機掩体が見え、SAM対空誘導弾陣地(SA-6という)や、対空火器や野砲用と思われる掩体、塹壕や避難壕のようなものも周囲に多数見える。反アサド政権勢力による攻撃が何時あってもおかしくない前線基地の緊張感が写真からも覗えるようだ。

この基地はロシア軍が近年拡張したといい、以前はロシア軍のヘリ部隊や戦闘機部隊も常駐していたそうだが、現在はアサド政権軍の第50航空旅団が使用しているという。 同航空旅団はMig-23装備の675飛行隊、Su-22M装備の677飛行隊と685飛行隊よりなるという。
3個飛行隊であるから定数はかなりな機数になるわけだが、戦闘損耗や整備不良等で稼働機はかなり少ないことだろうか。

周囲を囲まれた基地の中にさらに囲いを持つ特殊施設が見えるが、化学弾などを貯蔵していても不思議でない。
現在この基地にはロシア軍の軍事顧問団(80名程という)が居ると言い、トマホーク攻撃にあたってはロシア兵の死傷発生は避けるべく米はロシアに攻撃の1時間前に事前通知をしたという。
トマホークの攻撃目標は航空機及び掩体、燃料や弾薬庫等、対空火器及びレーダー施設等で滑走路は除外している。
ロシア軍事顧問団は結局同飛行場から脱出はせず被攻撃時も基地内に留まっていたという。 ロシアは戦死者まで出しながらアサド政権軍と共に戦っているのであるから、自分だけ安全に逃避するわけにいかないのは当然とはしても、ロシアの軍人もなかなか大したものである。

4日に化学弾攻撃を行ったSu-22M機の出撃から帰投までの三角を描く飛行航跡を米軍は把握していたというから、上空からシリア空域を監視していたE-3 AWACSによるものであろう。

E-3 AWACSの装備するAPY-2レーダーは高度3万フィートで300浬(555Km)以上のレンジがあるというから、地中海等の周辺空域の上空からシリア全域を監視することが可能である。
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シリア空域では米軍機等ばかりでなく、ロシア軍機やアサド政権軍機も作戦行動を行っており、不測の武力衝突を避けるため彼我に一定距離を置く等の戦闘航空管制が必要だろうし、被弾や故障発生等で乗員が脱出し敵性地に降りた場合、もしISISの捕虜にでもなれば散々宣伝に利用された挙句に残虐に公開処刑される可能性が高いから、即座にコンバット・レスキューを発動させて乗員を救出する必要が生じる。
米軍、あるいはNATOのAWACSがシリア空域の常時監視体制に就いているものであろう。

ロシアの”軍事顧問団”というのはアサド政権軍への作戦助言や指導を行っているのであるから、今回シリアのSu-22M機が化学弾を搭載し使用することは当然知っていたであろう。

化学弾攻撃時にロシアは目標地上空にUAV(無人機)を飛行させていたという。 UAVは目標選定や戦果状況確認等を行うわけであるから、今回の化学弾使用にあたりロシアがより積極的な関与をしていたとしても驚くには値しない。

SyrianSU22M
シリア・アサド政権軍のスホイSu-22M。旧式機ではあるが反アサド勢力への対地攻撃に重宝されているようである。
損耗補充にイラク戦争時にイランに逃避した旧イラク軍のSu-22をイランより入手したとも言われているが、とすれば旧イラク軍スホイ機も妙なところで活躍しているものである。

アサド政権は2015年以降ロシアの直接軍事支援(Russian military intervention in Syria-Wiki)を受けているわけだが、その支配管理地域は縮小こそすれ拡大してはいないようである。アサド大統領は長身の貴公子然とした男だが、人民からはあまり人気が無いような?
反アサドの民衆蜂起から今日に続く混乱が始まったことを考えると、納得もいくだろうか。
シリア国内は今や三つ巴四つ巴の混乱であり難民も大量流出、崩壊国家の様相だが、簡単に解決はするまいしまだまだ混乱は続きそうである。

ロシアはあらゆる手段を尽くしてアサド政権を支えるのだろうからアサド政権は続くだろうが、今後化学兵器を使用するには米よりの攻撃を予期せねばならず、今回のトマホーク攻撃は化学兵器使用の抑止には有効であったろう。

今回の攻撃に使用されたトマホーク・ミサイルは、BLOCKⅣと呼ばれる現在調達されている最も新しい型のトマホーク(TLAM-E、BGM109E)で、発射後にも衛星通信で飛行プログラム変更が可能といい攻撃目標を変更することが発射後でも可能であり、ミサイル頭部にカメラを装備しているので艦のCIC(戦闘管制室)等で目標突入や攻撃状況の目視確認も可能になっているという。(NAVY Fact File)(Tomahawk-wiki

命中精度も新型になる度に向上しており、その精度は”目標のビルの3階のこの窓”と指定してそこに撃ち込める精度という。

「クルーズ(巡航)ミサイル」の名の通り、巡航で速度は亜音速でありミサイルとしては酷く鈍足なのであるが、1600Kmという長大な射程を有し、高度数十フィートで地形に追随するフライトパターンで侵入するので、通常の警戒レーダーでは探知は困難であるから、迎撃が極めて難しい。
今回もシリア側は攻撃を事前に承知していたわけだが、SA-6 SAMはじめ迎撃には成功していない。

ロシアのシリア派遣軍は、同軍のスホイSu-24が領空侵犯によりトルコ空軍F-16に撃墜されて以降、防空力強化のため最新型地対空誘導弾であるS-400を持ち込んでいるが(Youtube)(S-400 SAM-Wiki)、今回Hmeymim基地(アサド国際空港)に配備されたS-400も沈黙した儘であった。
意図的に迎撃しなかった可能性も考えられるが、どんなに優秀なSAMシステムの3Dレーダーでもレーダー電波は直進なので、トマホークのようなものを補足・迎撃することは難しい。

巡航ミサイルの要撃はAWACSのような空中警戒機と連携するような防空システムでないと成功しないであろう。

今回の攻撃ではミサイル駆逐艦2隻より計60発発射したといい、うちトマホーク1発が発射直後に海面に落下し、59発の攻撃となったという。

2016年12月のトマホーク・ミサイル調達契約では、「214発調達で$303.7M」というから、単純計算で1発$1.4M(1億5千万円というところか)ということになる。
調達契約にはミサイル本体以外に補用品など他のものが含まれたりするから、ミサイル本体はも少し安いとしても、中小企業の元係長の少額納税者としては見たこともない金額の高価なものであるから、不良弾など出さないようメーカーのRaytheon社には品質管理を徹底してもらいたいものである。(Tomahawk missile facility-CNN

今のままでは近い将来必ず生じるであろう、北朝鮮攻撃のさいには発射全トマホークが有効に所要の攻撃効果を発揮するように。


◆大量破壊兵器

2013年だったか、オバマがシリアに対して武力攻撃を辞さずとしたところロシアの仲裁でシリア・アサド大統領は国連決議を受け容れて化学兵器の完全放棄に合意し、すべての化学兵器が平和裏にシリアから撤去された筈であったが、どっこい一部秘匿していたことになる。(Destruction of Syria's chemical weapons-Wiki

国連機関の査察団による監視検証もあるわけだが、全国土全施設をチェックするというのは事実上不可能なことであり、「秘匿保持しよう」との意思があれば、隠す方法は幾らでもあることだろうか。

化学兵器等大量破壊兵器の保有に走った同じ政体下で、国連など国際合意により「平和裏にこれらを完全放棄させ、二度と持たないようにさせる」というのは、現実には極めて難しいことであろう。

「アル中のおやぢに、持っているアルコール類を全て捨てさせ、以後2度と酒は口にしないよう自主管理させる。」というようなものだろうか。絶対無理とは言わないがなあ・・・

サダム・フセインのイラクも、イラク戦争直後には在る筈の大量破壊兵器が見つからず、保有していた化学弾は既に廃棄していたものと考えられたが、あらぬことか普通弾に偽装して各地の弾薬庫に混在秘匿していたのが、イラク軍遺棄弾薬処分時にそれと知らずに化学弾も一緒に処分し、障害者を生じたことて判明している。

化学弾は敵の人員を根こそぎ殲滅することが可能な強力兵器であるが、間違って使用すれば味方にも被害を生じかねず、また使用すれば相手もこちらに化学弾や核など大量破壊兵器攻撃を行ってくることを想定する必要もある。
国際条約で保有や使用が禁止されたものであるから、国際社会の反応を考慮する必要もある。
使用は国家トップの判断が必要だろうし、前線の現場で間違って使用されたリが生じては困るので、一般弾薬とは明確に分けて管理される筈のものであり、普通弾薬に偽装して一般弾薬に混在させる”常識外れ”をやられたのでは幾ら国連機関の監視団が頑張っても発見するのは難しい。

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これら数千発の化学弾が貯蔵されていた旧イラク軍弾薬庫はその後ISISの支配するところとなったものがあり、イラク戦争後居場所を無くした旧イラク軍の化学幹部がISISに参加したりもしてるので、ISISがこれら化学弾を入手し使用している可能性がある。 時々ISISが化学弾(マスタードガスという)を使用したとの話が出て来る。(NY Times他)

北朝鮮の場合も、現在の金一族体制の侭話し合いだけで核兵器や2500トン~5000トンほど保有していると推定(韓国防衛白書による)される生物化学兵器を全廃させることは難しいのであろう。

今回シリア攻撃に使用されたトマホークE型は日本本土から北朝鮮の全域に対する攻撃が可能である。

北朝鮮の防空体制では迎撃は不可能であるし、ピンポイントの攻撃精度を持つので、”我が共和国の金正恩同志”が喜び組と一緒に入っている風呂釜や、用を足している金の便座を撃つことが可能である。

現在Raytheon社では艦船や車両などの移動目標に対する攻撃能力を付与する研究開発も行っている。

トマホークは元々核弾頭を搭載するものだったので、米軍規格の核弾頭を搭載するようにすることも容易であろう。

憲法9条固守、自衛隊の海外派兵反対、米軍との共同防衛など集団的自衛権絶対反対、自衛隊は日本本土の防衛にだけ徹すべし、と声高に叫んでいる者こそ、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を受けて、自分の財産が焼かれたり親族に死傷者が出たりした途端に、「自衛隊何やっとる!早く行って北朝鮮のミサイル潰してこいや」、「特攻せんかい!」「状況は変わったんぢゃ!」と叫ぶことは目に見えているのではなかろうか?

弾道ミサイルを撃ち込まれてばかりでもしょうがないだろうから、日本もトマホーク・ミサイルの800発も導入してはどうか。