アメリカは広いのでチョッと出かけるとなると飛行機になる。

 バス(グレイハウンド)や鉄道(アムトラック)もあるのだが、例えばシアトルからサンフランシスコやロスに出かけるとして、バスや鉄道では到着は翌日になってしまうが、飛行機であれば日帰りすら可能である。

 料金もさほど違わないので移動手段としての優劣は明らかであり、航空路も北米大陸の隅々までよく発達している。

 もっとも、時間に追われて急ぐ必要もなく、ストレートバーボンのグラスでも片手にして移りゆく大陸の雄大な景色を眺めながら旅をしようと言うのであれば、アムトラックとかに限るだろうか。

 俺が飛行機に乗るときは、エコノミーの後ろのほうの便所に近い辺りの席で、やはり外の景色が見たいので窓際を選ぶわけだが。

 先日のサウスウエスト航空の事故では、窓際席の乗客が割れた窓から吸い出されたのだという。

 ニューヨーク発ダラス・テキサス行きのSWの737-700が高度320に達したところでNo.1エンジン破壊、破片が主翼・水平尾翼などを損傷し、さらにNo.14窓に当たった破片は窓を破壊してしまい機内の急減圧を生じている。

 該窓際の乗客はシートベルトはしていたとか聞くが、体半分機外に吸い出されてしまい、カウボーイハットの乗客ら周囲が協力して機内に引き入れたという。

 時速800㎞以上で飛んでいるのであり、暴走族のハコ乗りとはわけが違う。 ニューヨーク出張帰りの銀行家の女性だったそうだが、既に意識は無く、乗り合わせていた元看護婦の婆さんらが、着陸してEMSー救急隊に引き渡すまでCPRー心臓蘇生法を施していたのだが、頭部などに致命傷を負っていたそうで残念ながら助からなかった。

 他にも軽傷を負った乗客はいたが死亡したのは該女性一人であり、144人の乗客のうち偶々その窓際席に座ったばかりの不運! なんたる運命のいたずら。

 No.1エンジンのファンブレードが金属疲労で破壊しエンジン部を大破させたようだが、事故発生直後機体は左40度ほどのバンクに陥ったという。

 離陸時の操縦は1st Officerー副操縦士が行っていたが、事故発生で直ちにCaptainー機長が操縦桿を取っている。

 日本の企業などではそうでもないようだが、普通は上級者のほうが技量・識見などが一枚上であるので、事故発生で「ここ一番」という事態には上級者のCaptainが直ちに操縦桿を握ることになる。

 1st Officerー副操縦士も非常事態対応の十分な訓練は積んでおり、経験あるCaptainとの差と言うのは紙一枚程度だろうし大した違いは無いのだが、非常事態の時に人間の生死を分かつのは何時も紙一重なものである。

 高度320-32,000ft・約1万メーターあたりで急減圧になれば数分で正気混濁ワケワカメ、朦朧となって意識を失ってしまうので乗員用には非常用酸素マスクが用意されており、乗客用にも天井のPSUサービス・ユニット内に簡単な酸素マスクがちゃんと入っている。

 PSUの酸素マスクというのはマスクパイプを引くことにより化学剤反応を生起させて酸素を供給するもので、供給持続時間は12分、15分、22分のものがあるのだとか。 アルプスとかアンデスとかよほどな山岳地上空を飛行ルートとするようなエアラインでもない限り、普通は精々10分+程度の酸素供給時間というところになる。 FAA-連邦航空局の規定でもこれは「10分以上」となっているのだとか。

 PSUの酸素マスクはセンサーが14,000ft?の気圧を感知すると自動で落下して来、もしくは乗務員の操作で任意に作動できるのだという。

 急減圧発生の事態には操縦者は直ちに皆が普通に呼吸の出来る10,000ft程度まで機体を急降下させる必要が生じることになる。
 
 今回の事故機も32,000ftから8分で10,000ftまで急降下している。

 機長は「急減圧発生のため機を急降下させる旨」キャビン・アナウンスをしたというが、「バン!」に続いて機体がただ急落下するのと、操縦コントロールにより急降下するのを知っているのとでは、乗客の恐怖心には雲泥の差が生じよう。 もっとも機内は騒然たる阿鼻叫喚のパニック状態だろうから、機長のアナウンスが耳に入った乗客は多くはなかったことだろうか。

 「非常事態にこそ沈着冷静に」とは言うものの、今回のこの機長の落ち着きぶりには脱帽するしかない。

 非常事態こそ「オレの出番だ」「オレしか出来ない」とばかりに増々生き生きとしてしまう川戸正治郎氏を思い出してしまうが、この機長、ラバウル上空で空中戦の経験でもあるんぢゃなかろか?!

 No1エンジン大破、機体損傷、機内急減圧、乗客に死傷発生・・・この事態にこの平常心というのは「この機長、ただ者では無い」とは思ったが、元海軍航空で女性の戦術機乗りの草分け・開拓者の一人なのだというのだから畏れ入る。

TammieJoShultsNAVY18

 これだけ沈着冷静であれば、機体状況把握、判断と決心、エマージェンシー操作のひとつひとつに寸分の狂いも無いであろうことは容易に想像がつく。

 

 機長はじめ乗員乗客などがホワイトハウスに先日招待されている。



 この機長の旦那さんも海軍時代に知り合ったパイロットだそうで、息子もコロラド・スプリングスの空軍士官学校に進むと言うのだから、まさに飛行機一家!。

SWCFM567B
 事故機のCFM56-7Bエンジン。ファンブレードNo.13が欠落しているのが見える。

 2016年8月に同じサウスウエスト航空の737-700の同型エンジンで、ファンブレードの疲労破壊によるエンジン損傷という極めて類似の事故が発生しており、NTSBやFAA、エンジン・メーカーなどがその時点でも少し迅速に適切な措置がとれなかったものだろうか?とおっさんとしては思ってしまうのだが・・・

 787など新しい機体ではキャビン窓は一回り大きくなっているのだという。

 これから飛行機乗る時には窓際はやめて、便所の近くの通路側かな。 年取るとションベン近くなるから便利いいし。

 なあに景色だって、たまには若くて綺麗なアテンダントや乗客が通らないとも限らんし。


@当事故関連ニュースなどのまとめサイト